『慰霊をめぐる現在』テーマにシンポ 国際宗教研究所と上智大学グリーフケア研究所が共催

全体討議では、慰霊を通した宗教の公共性などが話題に上った

続いて登壇したタム・チー師は、近年、日本でのベトナム人の葬儀が急増しており、過去3年間で150人以上を見送ってきたと報告。故人の多くが技能実習生や留学生の若者で、来日する際に背負った多額の借金を返済するため、危険な職場や低賃金で働かざるを得ない状況があり、希望を見いだせず自ら命を絶つケースもあると訴えた。

一方、ベトナムに住む遺族が経済的な理由から来日できないことも多く、インターネットの中継を使って一緒に慰霊を行っていると説明。悲嘆に暮れる遺族の姿を見ると胸が痛み、故人の冥福を祈る気持ちが一層強まると語った。

最後に、1985年に発生した日航機墜落事故犠牲者の慰霊について研究する名和氏が発表。群馬県内にある事故現場は当初、遺族が私的に供養する場であったが、遺族が肉親の死の意味を考える中で、「死者が空の安全を守る守護的な存在となり、開かれた慰霊の場として位置づけられていった」との考えを示した。これまで県内外から多くの人が訪れていることに触れ、慰霊が事故の風化を防ぎ、再発防止に向けた意識を高めるなど社会的に大きな役割を果たしていると述べた。

この後、4氏による全体討議が行われた。筑波大学の山中弘名誉教授がコメンテーター、国際宗教研究所の三木英常務理事が進行役を務めた。討議では、諸宗教者が協働して慰霊を行うことで、より公共性や社会性が高まるとの認識が示されたほか、孤独死が年間約3万件に上っており、こうした人々に対する慰霊のあり方などが議論された。