第36回庭野平和賞贈呈式 ジョン・ポール・レデラック博士記念講演全文
ソビエト連邦が崩壊し、国内武力紛争が拡散するに伴い、私たちの平和構築の戦略は拡大しました。この第二の転換により、内戦と国内の和平プロセスに、次第に大きな重点が置かれるようになりました。私たちは、平和が持続的に広がることによって、人々の認識が地域の活動に向いていくことを少しずつ学びました。平和に向けた実践が拡大することによって、重層的で持続的な対話、何代もの世代間のトラウマ、修復かつ回復可能な正義、社会的癒やしや和解などに関わる課題に直面するようになりました。
そして2019年、私たちは平和構築における第三の転換を目の当たりにしています。
国家間における国際秩序の問題が二つの世界大戦を引き起こしたのが20世紀前半とするならば、今世紀初頭の四半世紀は、人類の生き残りに向けた探求が明らかになったと言えるでしょう。私たちは脆弱(ぜいじゃく)な地球にどう向き合えば良いのでしょうか。大量の人口が移動する時代に、私たちは「帰属」という人間の基本的な権利にどう取り組めば良いのでしょうか。そして深刻な分断をもたらすとともに、恐怖による操作と排他的な統制をもくろむ権威主義的な扇動に直面する中で、人間の尊厳に資する生活が保たれる地球規模での政治体制を、私たちはどう模索したら良いのでしょうか。
私が信仰するメノナイトという教えの名前の由来になったメノ・シモンズは、1539年、著書の中で「信仰とは、人々の苦しみに対して私たちの行動を求めるもの」であり、それは「空腹な人に食べ物を与え、他を傷つけるものに対し善を行い、そして傷口を縫い合わせること」と記しています。その数世紀後に、デズモンド・ツツ師は「私の人間性はあなたの人間性と固く縫い合わされている。なぜなら、私たちは共にあればこそ人間たり得るからである」と述べています。
今日、私たち世界家族は深い傷を負い、かつ傷ついた惑星に生きています。
こうした傷を乗り越え生き続けるために、癒やしと、尊厳によって導かれる地についた平和倫理が必要なのです。
地についた倫理とは、私たち自身が地球家族として、深い相互依存の関係にあるべきことを知らしめます。私たちの子孫から未来を奪い去るようなシステムから脱却し、社会的勇気や慈悲に満ちた回復力を潤す癒やしの井戸の水をくみ上げるよう、私たちはいざなわれています。私たちは今、豊かな多様性に彩られた人間性という名の資源を集結させなければなりません。