アブダビでの「人類友愛のための国際会議」――世界の宗教史の流れと立正佼成会(海外通信・バチカン支局)

UAEの建国祖師の廟で祈る教皇フランシスコとアズハルのタイエブ総長(写真提供=バチカン記者室)

2月3、4の両日、アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビで「人類友愛のための国際会議」(ムスリム長老評議会主催)が開催され、諸宗教代表者、政治指導者、識者、メディア関係者など約700人が参加、立正佼成会から庭野光祥次代会長が出席し、全体セッションでスピーチした。同会議には、イスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長とローマ教皇フランシスコが出席。ローマ教皇の史上初めてのアラビア半島訪問に、全世界の注目が集まった。

4日にアラブ首長国連邦のアブダビに到着したローマ教皇フランシスコは大統領府での歓迎式典に臨んだ。

教皇はナヒヤーン大統領に、アッシジの聖フランシスコが1219年、エジプトのイスラーム指導者であるメレク・アル・カミルと抱擁する様子をかたどったメダルを贈呈した。これは、聖都エルサレムの争奪を巡って西欧のキリスト教諸国が派遣した十字軍とイスラーム諸国軍との紛争のさなか、聖フランシスコが弟子一人を連れ、十字軍に包囲されていたイスラーム陣営に赴いて和平交渉を試みたことに由来する。懇談後、教皇は記念の署名台帳に、「大統領と全国民のために祈り、彼らに神からの平和と友愛の祝福を願う」と記した。

カトリック教会の最高指導者がイスラーム教徒の大統領と国民のために祈る――その姿から、教皇が今回の訪問に際して命題に掲げた「私をあなたの平和の道具としてください」(聖フランシスコの「平和の祈り」)という意志が伝わってくる。アッシジの聖人の名を法名とする現教皇が、歴代教皇として初めてイスラーム発祥の地であるアラビア半島を訪ね、「イスラームとの対話が現代世界における平和構築に向けた決定的な要因」(6日のバチカンでの一般謁見=えっけん)との確信を世界へ発信したのだ。「人類の友愛」の平和メッセージを世界の諸宗教指導者ら700人が見守った。

1965年に教皇パウロ六世と庭野日敬開祖の間で交わされた「キリスト教徒が仏教徒のために祈り、仏教徒がキリスト教徒のために祈る」という言葉に、第二バチカン公会議後のカトリックの諸宗教対話に臨む姿勢が凝縮されている。バチカンは、イスラームについても信頼できる対話のパートナーを探し続けてきた。特に、2001年の米国同時多発テロ以降、宗教に名を借りた暴力が頻発するようになり、イスラームとの対話は喫緊の課題となった。そして、バチカンが注目したのが、イスラーム・スンニ派の最高権威機関「アズハル」のイニシアチブだ。

バチカンはアズハルとの関係構築に尽くし、その結果、16年にアズハルのアハメド・タイエブ総長が初めてバチカンを訪問する。これを機に、カトリック教会とイスラームとの対話、テロへの共闘、諸宗教対話による世界平和への貢献に関する協力が急速に進展。17年には、教皇がアズハルで行われた「平和のための国際会議」(本会から川端健之理事長が参加)に出席した。今回のアブダビでの会議は、アズハルでの会議の延長線上にあり、「宗教と暴力の結びつきの否定」から「人類の友愛」へと一歩前進した内容だ。

ムスリム長老評議会が主催する「人類友愛のための国際会議」では、教皇のアブダビ訪問中、ムスリム長老評議会議長でもあるタイエブ総長が教皇に付き添う姿が報じられた。会議で両指導者は、「信仰が、他者を支え、愛する兄弟として見るようにと信仰者を誘(いざな)う」との文言が記された「世界平和と、共存のための人類友愛に関する文書」に共に署名し、自らの言動を通して友愛の重要さをアピールした。

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