伝統芸能が地域の“宝”になる 長野・大鹿村で庭野平和財団がGNH現地学習会

歴史を語る片桐さん

面会の中で、村を挙げて大鹿歌舞伎の保存に取り組むようになるまでの経緯に触れた片桐さんは、歌舞伎クラブで指導を始めた当初、村議会で一部の議員から保存に反対の意見があがり、存続が危ぶまれた時期があったと述懐。その際、同クラブの生徒11人が連名で村長に嘆願書を出したことで議会の意見が保存へと変わり、地元の子供たちに勇気づけられたと振り返った。

また、物やサービスにあふれた都市の生活とは対照的な山村の暮らしに触れ、村人自身が演じる伝統芸能の意義に言及。自然と向き合う生活の中で、「百姓はなかなか思うようにはいかん。自分から進んでできる楽しみと人と人との輪がにゃあ生きていけん」と語り、歌舞伎を通じて村人が交わり、支え合ってきたと紹介した。

翌日、同村の市場神社で歌舞伎が公演され、一行は約1000人の県内外からの来場者と鑑賞。舞台では、愛好会のメンバーや高校生により、義理人情を題材にした悲劇「玉藻前旭袂(たまものまえあさひのたもと) 道春館の段」「絵本太功記十段目 尼ヶ崎の段」が上演された。力強い見得(みえ)も披露され、観衆からは大きな拍手が送られた。

「玉藻前旭袂 道春館の段」

「舞台を見て、大鹿歌舞伎がいかに村人に愛されているかが分かりました。村の中でコミュニティーツールの一つとされてきた伝統芸能が今、村の財産になっているのだと感動しました」と参加したNPO法人「明るい社会づくり運動」事務局スタッフの青木秀郎さん(35)。砂川敏文同理事長(70)は、「伝統を守ってこられた方に直接お会いし、どういう思いで継承しているかを伺えたことが今回の大きな収穫。信念を持ち、粘り強く取り組んでこられた片桐さんの姿勢に感銘を受けました」と話した。

一行は22日、上伊那郡に移動。NPO法人「伊那里イーラ」の根目沢昇氏から、人口減少が続く伊那地域での地域起こしのため、里山の価値を見直し、地域住民と都市の企業をつないで再生を図る活動について説明を受けた。

GNH(国民総幸福)

GNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)といった経済発展の指標ではなく、幸福度によって豊かさを示そうとする開発の理念。経済成長も大切ではあるが、生態系や伝統文化の保全、地域との連携など「調和」重視の考え方に基づく。1976年にブータンの前国王により提唱された。同国政府はGNHの基本に「公正な社会経済発展」「環境の保全」「文化の保存」「良い政治」を挙げている。