【Japan Hair Donation & Charity 代表理事・渡辺貴一さん】髪が人をつなぐ 広がれ善意の束

活動10年目を迎えて 根底にある思い

――ジャーダックの活動は今年、10年目を迎えました。ここまで続けてこられたのはなぜでしょう?

この活動に取り組む中で、10代の人の死を間近に見てきたことが大きな要因の一つだと感じます。ウィッグは、依頼を受けてお渡しするまでに長くて2年かかりますから、この間に亡くなる方もいます。

ある時、ウィッグの用意ができたので連絡を入れると、子供のお母さんからメールでその子の訃報が届きました。そこには、「実は息子は天国に行きました。でも、ウィッグを待っている間に、『病気を治したら、ウィッグをつけて遊びに行きたいね』と息子と話しました。その時間が、すごく幸せな時間でした」とありました。

こうした体験を何度もしましたが、その中で、短い人生は必ずしも不幸とは言えないということを教わりました。それは、僕にとってとても価値のある気づきでした。

しかし同時に、不幸とは言えないけれども、僕が生きている今は、彼らの生きたかった未来だということも痛感しました。僕は今47歳です。早世した彼らもきっと、大人になってビールを飲んでみたり、結婚して家庭を築き、親になったりしたかったでしょう。彼らにとって明日が来ることは奇跡だったわけで、彼らに訪れることのなかった日々を無為に過ごすのではなく、彼らの思いもくんで意味のあるものにするために、僕自身が“善い人生”を送る――それが彼らから受け取ったことです。関わった以上、ウィッグを必要とする子供たちのことは人ごとではなくなりました。

【次ページ:髪をあげる人ももらう人も 活動に加わったみんなが対等】