生殖補助医療の倫理的課題 日宗連が「第8回宗教と生命倫理シンポジウム」

『生殖技術――「自然」から新しい倫理の模索へ』をテーマに、日本宗教連盟(日宗連)による「第8回宗教と生命倫理シンポジウム」が12月11日、東京・港区の神道大教院で開催された。日宗連の協賛5団体(教派神道連合会、日本キリスト教連合会、全日本仏教会、神社本庁、新日本宗教団体連合会)などから約90人が参加した。

同シンポジウムは、一人ひとりの死生観に影響を与えている現在の社会環境とその課題を考察するもの。これまでは、脳死・臓器移植法や尊厳死法案など医療に関わる問題を取り上げ、あらゆるいのちの尊厳を守る宗教的な視点から議論を重ねてきた。今回は、年々、受診者数が増加している生殖補助医療について。当日は、明治学院大学社会学部の柘植あづみ教授が講演に立った。

明治学院大学の柘植教授

柘植教授は冒頭、現在の生殖補助医療に触れ、体外受精された受精卵(胚)を凍結保存し、女性の体調に合わせて子宮に移植する「凍結胚・融解移植」が不妊治療の主流であると説明。2015年には、約5万人が生殖補助医療によって誕生し、その割合は出生者全体の約20人に1人にあたると明かした。一方、同年の生殖補助医療の年間症例数は約42万件に及ぶことから、「成功率は高いとはいえない」と指摘した。

また、羊水を検査して胎児の染色体異常や一部の遺伝病の有無を調べる従来の「出生前検査」に加え、近年は妊婦の血液検査によって、羊水検査と同等の診断ができる「新型出生前検査」が普及している状況を解説。「診断によって分かるのは、一部の障害や病気だけであり、それも絶対ではない」にもかかわらず、重度の障害の可能性が示された場合に、医師は胎児の知能や運動機能の発達予想などの情報を示すため、それがかえって人工妊娠中絶を選択する要因になっていると詳述した。さらに、軽度の障害があるとの可能性を示された場合にも、妊婦は子育てや生活の不安を理由に、「パートナーや家族と相談し、『生まない』選択をする傾向が強い」と、日本の現状を語った。

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