TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトクラリネット・瀧本千晶さん Vol.3
瀧本千晶さんが東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)に入団して、今月で1年が経つ。最終回では、楽団の中でアルトクラリネットパートを担う上での苦労や団員として大切にしていること、吹奏楽部員に向けたメッセージなどを紹介する。
役割と責任を自覚して、楽しむ
――アルトクラリネットならではの苦労はありますか?
私のパートであるアルトクラリネットは、他の楽器とのアンサンブル(合奏)で中音域の厚みを増す役割を担うことが多い楽器です。一方、アルトクラリネットが単独で奏でる場面はほとんどないので、その音色だけを聴く機会はあまりありません。クラリネット(B♭管)のようにソロ演奏を収録したCDなどもないので、その音色をはっきりとイメージするのに苦労すると思います。
佼成ウインドでは現在、アルトクラリネットを担当するのは私だけです。ですから、リハーサルでは、自分の音色や音程がこれで良いのかを自身でしっかり確認し、さらに中音域の演奏を共にするバスクラリネットやオーボエ、ファゴットの先輩たちに「どうですかね?」と尋ねて、客観的な判断を取り入れて調整することを心がけています。アルトクラリネットのパートは一人だけですから、私の責任は重大です。
そうした苦労はありますが、アルトクラリネットならではの楽しみもあるんです。中高生の吹奏楽部時代、テナーサクソフォンやユーフォニアムがオブリガード(他の楽器が奏でる主旋律の裏や合間に合いの手のようにメロディーを入れること)を奏でる場面がとても格好が良くて憧れていました。これは、当時吹いていたB♭管では担うことはできませんでしたが、アルトクラリネットではできるので、新鮮さを感じ、楽しみながら気持ち良く演奏しています。
――瀧本さんが佼成ウインドの一員として大事にしていることは?
佼成ウインドは、吹奏楽部の中高生の誰もが知る楽団で、私自身も学生時代に憧れていた楽団でしたから、そうしたまな差しが自分に向けられることを忘れないで、期待に応える演奏を心がけています。
アルトクラリネットは、オーケストラ(管弦楽)では使われません。吹奏楽でも登場しない作品も珍しくなく、「プロ」の演奏家が他の楽器に比べて少ないのが現状です。先程お話ししたように、この楽器単独の音色を味わえるCDがほとんどありません。ですから、学校の部活でも、専任の部員を置くことはまれなのですが、そうした中で、アルトクラリネットを吹く学生たちにとって、私の演奏は「手本」として見られますし、アルトクラリネットの演奏に限らず、楽器の練習方法や演奏について質問を受けた時、私の答えは全て、「プロのアドバイス」「佼成ウインドの人が言っていた」となり、大きな影響力を持って伝わると思うのです。中途半端なことを伝えてしまえば、先輩たちが60年以上にわたって積み上げてきた佼成ウインドの名に傷をつけてしまうことになりますから、ここでも責任は重大です。楽団の一員として、最高の演奏をつくり上げることはもちろん、プロの演奏家として知識と技術を磨き、さらに、それを伝える役割も担っているのだと思うと、気が引き締まる思いです。