TKWO――音楽とともにある人生♪ テナートロンボーン・石村源海さん Vol.1

単純な構造に拍子抜けしたトロンボーン

――実際に触った時の印象を覚えていますか

初めてトロンボーンを触った時の印象は、今でも情景を思い出せるほど、鮮明に残っています。トロンボーンは、スライド管を前後に動かして音階を奏でるのですが、そのスライド管が動くのは、「歯車がはめ込んであるからかな」とか「音が変わるごとに止まるようにできているのかな」とか、触れる前は、その仕組みをいろいろと想像していたのです。でも、実際はスライド管を前に押し出すと、手でつかんでいなければスルスルと動いて、ラッパの形をしたベル管から簡単に抜けてしまうという、つまり、筒にはめ込んであるだけの簡単な構造だったのです。歯車などないし、音階の位置も自分で見つけなければならないことを初めて知って、メカが好きで、複雑な構造を想像していた僕は、ある意味、拍子抜けしました。音階ごとにストッパーが付いていて切り替わることもなく、「自分で位置を見つけて、うまく止めなければならないのか」と思ったことを覚えています。

――小学生で楽器を演奏するようになり、そのまま、吹奏楽を究めていったのですか

中学校で吹奏楽部に入部はしたんですが、将来は電車の運転士になろうと思っていたんです。電車が好きでしたから。でも、中学2年生の時にコンクールで入賞して自信がつき、次第に音楽の道を志すようになっていきました。芸術コースのある高校に進み、東京藝術大学(藝大)に進学することができました。

今、振り返っても、よく大学に合格できたなと思っています。受験の直前に自信をなくし、焦りを感じていたからです。

受験に向けて、藝大の先生の個人レッスンを受けていました。そこには、同じく受験する他の門下生がいて、受験を控えた数カ月前に、彼の演奏を聴く機会がありました。

その演奏を聴きながら、「僕は、この人の演奏に勝てていない」と思ったのです。技術的にも、音楽的なセンスでも自分は及ばないと感じたのです。毎年、藝大のトロンボーンの合格者は多くても3人なので、この時点で一度、心が折れました。僕は先生の前でうまく演奏することもできず、受験には間に合わないと思いました。

それからの日々は、練習を続けるのですが、休憩時間のたびに、「だめだ。これじゃだめだ」と自分を責めてばかりで、それがさらなるプレッシャーとなって、食事を戻してしまうほどでした。受験の3次試験が終わり、合格発表日まで、落ちる夢ばかりを見ていました。落ちると思っているから、次に備えて必死に練習を重ねていたのですが、合格と知って驚きました。

プロフィル

いしむら・よしひろ 1997年、東京・中野区生まれ。2015年、第22回日本トロンボーンコンペティション独奏部門高校生以下の部で第1位となる。20年に東京藝術大学を卒業し、東京佼成ウインドオーケストラに入団。