TKWO――音楽とともにある人生♪ パーカッション・渡辺壮さん Vol.2
昨年、45歳で東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)に入団した打楽器奏者の渡辺壮さん。今回は、長年にわたるフリーランスの演奏家としての活動を通じて培われたもの、TKWOのオーディションを受けた経緯について聞いた。
多くの演奏家と演奏を共にして
――佼成ウインドに入団するまでは、どのような活動を?
ずっとフリーランスで仕事をしてきました。その間、数え切れないほどのオーディションを受け、そして、落ち続けてきましたね。あくまでも私の感覚としてですが、演奏家が楽団に採用してもらえる年齢はいろいろな理由から、35歳ぐらいまでではないかと思っていました。それでも、演奏家として音楽を追求していく上で、安定した生活を送るのは大事なことですから、その年齢を超えてもしばらくは、オーディションを受け続けていました。
パーカッションは多くの楽器を扱うのですが、大半の奏者が全ての楽器を持っているわけではありません。オーディションでは、自分が持っていない楽器の審査もあることが多く、その場合は、楽器をレンタルし、練習のためのスタジオも借りる必要があります。練習時間も必要なので、その間は仕事が請けられません。フリーの身として経済的な負担は大きく、結果が伴わないと、きついものがありましたね。
40歳を超えたころから、どの楽団のオーディションも、勝ち目のない勝負に挑んでいるような思いになりました。10年前に法律が改正されて、今はどの業界でも、求人を募集する際に年齢制限を設けてはならないことになっています。しかし、自身の年齢を考えるとオーディションを受けようというモチベーションが上がらなくなり、フリーの演奏家として生きていこうという気持ちが強くなっていました。
――そこで、なぜ佼成ウインドのオーディションを受けようと?
実際にエキストラとして佼成ウインドとの関わりを持つ中で、「オーディション時、年齢にこだわらない」と感じたからです。純粋に、良い音、良い演奏を追い求める楽団だと感じていました。ですから、もしオーディションを受けるチャンスがあるならば、佼成ウインドにはチャレンジしてみたいと思っていました。そして昨年開かれたオーディションを受け、合格することができました。私は45歳。自分が思っていた採用してもらえるギリギリの年齢よりも、10年も遅く楽団の一員として迎えてもらえ、うれしかったですね。
――苦労が報われましたね
フリーでの活動も意味があったと感じています。さまざまな楽団に呼ばれますから、数多くの演奏家と一緒に音を出す機会に恵まれました。その出会いの中で、演奏家としてのあり方を学ぶ機会が多かったと思います。
〈この人はすごく良い音を出すな〉。そう思う演奏家と出会った時は、その姿をじっと観察して目に焼きつけ、チャンスがあれば、何かを教えてもらおうと、直接聞くようにしていました。でも、大半の方がこう答えるのです。「自分にもはっきりとは分からない」。私の質問をはぐらかそうとしたわけではなく、真剣にそう言われるのです。他にも「これが正解とは断言できないけれど、僕は今はこう思う」という言い方をする方ばかりでした。〈経験を積み、こんなに素晴らしい音色を奏でることができる演奏家にも、分からないことがあるんだ〉と驚くことが多かったです。憧れるような演奏をする方々は皆、今よりもっと良い演奏をしたいという気持ちを絶やさず、演奏家として常に進化し続ける姿勢で音楽と向き合っていると感じ、自分もまた、そうありたいという思いが強くなりました。さまざまな出会いの中でそのことを実感できたことは、私にとって大きな宝物です。