TKWO――音楽とともにある人生♪ バスクラリネット・有馬理絵さん Vol.1

日本トップレベルの吹奏楽団として知られる東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)。演奏会をはじめ、ラジオやテレビ出演など、多方面で活躍する。長年、全日本吹奏楽コンクールの課題曲の参考演奏を行っていることから、特にコンクールを目指す中学生・高校生の憧れの存在でもある。今企画24人目に登場するのは、バスクラリネット奏者の有馬理絵さん。Vol.1では、バスクラリネットの特徴や有馬さんの奏者としてのこだわりを紹介する。

幅広く活躍する楽器

――クラリネットにはいくつかの種類がありますが、その中でバスクラリネットの役割は何でしょう?

低音楽器のバスクラリネットは、バリトンサクソフォンやテューバと共に、厚みのあるサウンドを低音で下支えするのが大きな役割です。ただ、他の低音楽器と違うところは、音域が広く、高音楽器のB♭管のクラリネット(B♭管)と同じメロディーを吹くこともあり、伴奏からメロディーまで幅広く活躍する楽器であるということです。

吹奏楽では、バスクラリネットの音域をカバーできる楽器があるからといって、バスクラリネットを外している楽曲はほとんどありません。コントラバスクラリネットやアルトクラリネットは出番がないこともありますが、バスクラリネットは、ほぼ100%出番があります。

低音の厚みを増すだけでなく、クラリネットの高音、中音の音の層を厚くしたい時の“助っ人”になり、クラリネットの音色を高音域から低音域まで同じ音色で奏でたい時のつなぎ役にもなります。また、バスクラリネットは重く厚い響きから明るく軽い音色までとても多彩な表現ができるのも特徴で、重宝がられているのでしょう。

低音楽器ですから目立ちにくく、その上、クラリネットセクションでは人数が少ない楽器なので、「なくても大丈夫ではないか」なんて思われてしまうこともありますが……。一度、リハーサルの途中で体調を崩してしまい、早退したことがあったのですが、後日、楽団員から「(サウンドが)全然違ったよ」と言われました。多くの注目を集める楽器ではありませんが、オーケストラの音色を変える重要な役割を担う楽器なのです。

――バスクラリネット奏者としてのこだわりはどんなところに?

音楽、音符からイメージされる色彩感を大切にしています。そしてさまざまな色彩を持った音色を奏でるためには、リードが重要だと感じています。

近年、バスクラリネットの楽器としての性能はかなり向上しているので、良い楽器を吹いていればある程度良い音を出すことができます。けれども、そのもう一つ先の、より上質な音色をつくるために、自分に合ったリードをつくり上げていくことが仕事の一つです。リードには、個体差があって、良いものも、使えないダメなものもあります。ですが、私は最初からダメなリードとレッテルを貼らずに、“育て方”によって良くなることもあるので、長い目で見て育てるようにしています。

リガチャー(リードの留め具)にもこだわりを持って、特注している

私のリードの育て方を紹介します。例えば、6月の定期演奏会に向けてリードを育てるとします。その半年前の1月に新しいリードの封を切り、25枚のリードを毎日ほんの少しずつ吹いて、成長を見守ります。最初のうちは吹きやすかったり、吹きにくかったりと、その日によって状態が変動していたリードが、2カ月ぐらいで安定感が増し、平均値を上げてきます。ですが、その時点ではまだ、仕事で使わずに、同じ作業を続けると、定期演奏会を迎える頃には、屈強なリードたちが出来上がります。弱々しい最初の頃のリードは、湿度や気温の変化の影響を受けやすく、ホールでも、空調の影響一つで、調子が良かったリードがダメになることもありますが、半年、時間をかけてしっかり育てたリードたちはそんな影響をあまり受けることなく力を発揮してくれます。

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