TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・大浦綾子さん Vol.3
クラリネット奏者の大浦綾子さんは、10年以上にわたり東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)のエキストラを務め、2001年に正式に団員として加わった。最終回では、大浦さんが演奏家として大事にしていること、吹奏楽に取り組む中高生に向けたメッセージなどについて伺った。
自分を良く見せるために音楽を“利用”しない
――佼成ウインドに入団して、18年を迎えます。今、大浦さんが演奏家として大事にしていることを教えてください
音楽に対して誠実であり続けることです。今、私は、大学などで講師を務めていますが、学生から、「緊張しないためにはどうすればいいか?」とよく聞かれます。緊張は誰だってするもの。練習不足で人前に立ったら、それはもちろん平静ではいられませんよね。人が必要以上に緊張する、そこには原因があると思っています。それは、実力以上のものを見せよう、相手に自分を認めさせようという気持ちです。
誠実に音楽と向き合えているならば、聴く人に自分はどう思われようが、関係ありません。「自分はこう思う」という演奏を堂々と披露すれば良いだけのはずです。逆に、自分を良く見せようとすればするほど、思った通りにいかなかった結果、「自分はどう思われるか?」と気にしてしまい、緊張につながるのです。さらに言えば、そうした振る舞いは、自分を良く見せるために音楽を“利用する”ことになりますから、音楽に対してとても失礼なことだと、私は思うんです。とはいえ、そうした話を学生たちに伝える時、自戒の念が込み上げてきます。私自身も、「こんなふうに演奏したらどう思われるだろうか」と邪念が湧くことがありますから。その時に、「自分は音楽に対して誠実であるか?」と自問できるかどうか、立ち返るための指針を持っているかどうかが大事だと思っています。
――フランス語が堪能で、佼成ウインドがフランス人指揮者を迎える時、通訳をされることがあると聞きました
フリーのクラリネット奏者として活動しながら、1990年から2年間、パリへ留学していたんです。でも、当時は音楽の勉強に力を注いでいて、語学にはそれほど手をつけませんでした。ところが、帰国後は、楽器の講習会などでフランス人が講師を務める場面での通訳を頼まれる機会が増え、楽器の演奏に関してもっと深く話を聞きたい、吸収したいという気持ちが高まりました。それなら、今から改めて勉強しようと思い、以来ずっと続けていたら、留学当時よりも喋(しゃべ)れるようになったのです。
日本にいると、日常で英語を使う機会はあるのですが、フランス語は意識しないと使えなくて、すぐに忘れてしまいます。だから今は練習のために、フェイスブックで日記を書く時、日本語とフランス語の両方で書くようにしています。それからは、フランスの友達が読んで、メッセージをくれることもあります。新たに言葉を習得して、意志疎通できるようになるのはすごく楽しいですよ。佼成ウインドの指揮者としてフランス語圏からやってくる方々とのコミュニケーションにも、生かされています。