TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・小倉清澄さん Vol.3
音楽を身近に感じ、楽しむ生活を
楽譜の演奏指示にある「ドルチェ」という言葉は、「柔和に」「甘美に」「優しく」という意味ですが、イタリア語本来の意味では甘いお菓子、食べ物のことでデザートを指すんだよ、という具合です。すると、子供たちは、言葉と意味をつなぐだけでなく、甘いお菓子、アイスクリームやプリンを食べた時の感覚まで想起し、その感覚を音に込めるために、どのように表現しようかと考えてくれるでしょう。表現を高めるには、想像力が大切ですから。
楽曲の途中で拍子の運動を止める合図である「フェルマータ」も、これはバス停っていう意味があるんだよ、と。言葉の由来を教え、身近なものとして感じてもらいたいのです。音楽には、学問として習得する部分も求められますが、純粋に味わい、楽しむことがより大切だと僕は思っています。
バスを止める運転手の気持ちになって<急ブレーキをかけたら乗客がびっくりしちゃうな>とか、乗客目線で、<降りる準備をしっかりしなきゃ>などと想像します。演奏したり聴いたりするだけでなく、楽譜を読むだけでも音楽を楽しむことができるのです。生活のあらゆる場面で音楽を感じられるような心豊かな人生を送ってほしい――そう願って子供たちと接しています。
――最後に、今、中高生で吹奏楽に取り組んでいる子供たちに向けてメッセージをお願いします
みんなで演奏したら楽しい、それが吹奏楽です。その中で、自分たちは演奏を通して何を伝えたいかをはっきりと意識して、それを全力で表現してもらいたいと思います。中高生の集団がコンクールの演奏に向けて真剣に取り組む姿は、同年代だけでなく大人の心までも動かす大きな力を持っています。その力を信じて、練習に取り組んでください。
毎日のクラブ活動で<一生、この楽器を続けたい>と思えるほど、演奏の楽しみを感じられたら、最高ですよね。でも、いつか、楽器を置かなければならなくなる日がやってくるかもしれません。それでもずっと、音楽を好きでいてほしいと思います。そして、佼成ウインドのコンサートを一度でも生で聴いてみてください。音楽を聴くことの喜びだけでなく、かつて吹奏楽部で音楽に親しんだ記憶をも呼び起こすような、心震える演奏を披露しますから。
僕らがステージで演奏していると、お客さんの表情が、何かの瞬間に変わることがあるんです。それは、高揚感であったり、ハーモニーであったりとさまざまなのですが、その瞬間は、音を出している僕らが最初に感じます。その時、余裕があれば、ステージからお客さんに目をやって、パッパッて見てみるんです。何ともいえないうっとりとした表情をされている人がいると、本当に力が入りますね。<もっと気持ち良くなってほしい……>と。
聴きに来てくださったお客さんが、終演後、そのまま家に帰るわけでなく、ちょっとどこかに寄り道していこうか、お茶飲んで帰りたいな、一杯やって帰りたいねっていう余韻に浸りたくなるような演奏会になることを願い、僕は毎回、ステージに臨んでいます。
プロフィル
おぐら・きよすみ 大分・中津市生まれ。中学校入学と同時に吹奏楽部でクラリネットを始める。1984年に東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業し、85年に東京佼成ウインドオーケストラに入団。故フレデリック・フェネル氏をはじめ、内外の指揮者と同オーケストラで多くのソロ曲を共演する。全国でクラリネットクリニックを開催し、小学生から社会人までを指導。各地の吹奏楽コンクールの審査員も務める。現在、くらしき作陽大学非常勤講師。