TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・小倉清澄さん Vol.2
聴き手に喜んでもらうために、全てを懸ける
――心をつかむうまさですね。先ほど、フェネルさんは「多少わがまま」というお話もありましたが
自分がこうだと思ったら、団員がいくら「難しい」「無理です」と言っても、突き進む性格です。僕らを指揮していた当時、フェネルさんは70歳を超えていて、体力的なこともあったのですが、その中でも、どう演奏するかを楽団員と、時には侃々諤々(かんかんがくがく)、ある時はとことん話し合っていました。
それほど、観客を楽しませることに気持ちを傾けていたということだと思います。タクトを野球のバットに見立てて、ボールを打つように大きく振ってみせるパフォーマンスも、そうするとお客さんが沸くからです。とにかく魅(み)せる人でした。
あと、フェネルさんは、楽団員一人ひとりに興味を持って接してくれました。アメリカにいる時でも、何か伝えたいことがあると、楽団員の元へ手紙が送られてくるんです。全部筆記体だから読みにくくて(笑)。読み解くのに苦労しましたが、うれしかったですね。そういう姿を通じて、毎日、ずっと音楽のこと、われわれ楽団員のことを考えてくれていたんだと改めて思います。
音楽をどのように表現して、聴き手に喜んでもらうかを常に探究する心を持ち続けられていた方です。普通に考えて、アメリカから日本という遠い国にいる、それまでよく知らなかった人たちのために人生を費やし、向き合ってくださった。その心意気に、本当に感謝しています。
プロフィル
おぐら・きよすみ 大分・中津市生まれ。中学校入学と同時に吹奏楽部でクラリネットを始める。1984年に東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業し、85年に東京佼成ウインドオーケストラに入団。故フレデリック・フェネル氏をはじめ、内外の指揮者と同オーケストラで多くのソロ曲を共演する。全国でクラリネットクリニックを開催し、小学生から社会人までを指導。各地の吹奏楽コンクールの審査員も務める。現在、くらしき作陽大学非常勤講師。