立正佼成会 庭野日鑛会長 1月の法話から

画・茨木 祥之

物事を難しく考えない――易簡

私たちは、とかく物事を、難しく、面倒くさく捉えようとしがちです。簡易保険の「簡易」というのは、手軽なこと、容易(たやす)いこと、という意味があります。世の中の物事は皆、本当は「簡易」、逆にして「易簡(いかん)」、易(やさ)しいということであります。

日常生活で言葉というのは、人と人とをつなげていくとても大事なものです。ですから、あまり難しく考えないで、とにかく家庭では「三つの実践」をしていく。つまり、「家庭で朝のあいさつをする」「人から呼ばれたら『ハイ』とハッキリ返事をする」「履物を脱いだらそろえる」――そうした実践を通して、家庭で仲良くしてまいりましょう、と申し上げてきました。本当に簡単なことでありますけれども、言うは易(やす)く行うは難(かた)し。

朝のあいさつも、すると気持ちがいい。人から呼ばれたら返事をすると気持ちがいい。ですから、気持ちのいいことを日頃から実践していくと、人と人との間が仲良くなります。簡単なことではありますけれども、ぜひ私たちは、真剣に実践してまいりたいと思います。

また、家を出る時には、「行って参ります」と言います。「行ってきます」では、ただ行って、帰ってくるだけですが、「参ります」の「参る」という字を使いますと意味合いが違ってきます。

ちょうど皆さまは、今日、大聖堂を参拝され、ご本尊さまをお参りされています。その「参」の字ですから、これは、偉大なるものにお参りすることであり、「何か尊いことを学んで帰って参ります」という意味合いになります。「行って来ます」ではなくて、「行って参ります」。この「参る」ということの意義、意味をしっかりと心にとどめて、出掛け、帰ってくることを心がけたいものです。

それから、人と会った時は「こんにちは」、朝ですと「おはようございます」、昼間でしたら「こんにちは」と言うことが、人と人の間をつなぐ、大事なあいさつとなります。家に帰った時に、「ただいま」という元気なあいさつができたら、家の人たちも安心することができます。

仏教では、「ただいま」という言葉が、とても大事だと教えられています。私たちは、過去に生きているわけではなく、未来に生きるわけでもありません。たった今、ここに生きている時が、「只今(ただいま)」ですから、とても大事な言葉です。只今生きていることに感謝をして、帰って来た時に「ただいま!」と言う。これもまた、人と人との間をつなぐ大事な言葉であります。

そして私たちは、仏さまをお参りする時、「南無妙法蓮華経」と唱えています。この「南無妙法蓮華経」のもともとの意味は、「私たちは、仏さまがお説きになられた真実の道理に向かって、尊い教えに帰依します」ということです。ですから、「南無妙法蓮華経」とは、「南無真実」ということになります。ただ単に、「南無妙法蓮華経」と唱えているだけではなく、このご法が真実であるから帰依します、という思いで、私たちは唱えさせて頂いているわけです。

真実というものに従って、人生を歩んでいくと、自分が大きな気づきを頂き、お悟りを頂いて、真実というものが本当に尊いと分かってきます。すると、自分だけがそれを知って、救われていくだけではなく、人さまにもお伝えし、自他共に救われていく菩薩道を歩んでいくようになります。
(平成29年12月15日)