TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・林裕子さん Vol.1
クラリネットの大変さは演奏以外にもあり
――クラリネットはどんな楽器ですか
私の使っているクラリネットは、マウスピース以外の黒い部分は木でできています。木は管理が大変で、湿度や気温に気を配らないと、胴体が割れてしまうこともあります。でも、胴体の手入れ以上に私の頭を悩ませているのがリードの調整です。
新品のリードは、そのまますぐに演奏に使えるわけではありません。リードは葦(あし)でできているのですが、水分の吸収具合によって音や吹き加減が変化してしまいます。また、いきなり大量の水分を含ませてしまうと、使い物にならなくなってしまいます。そのため、新品のリードは3週間から1カ月程度の時間をかけて、自分に合った仕様に育てることが必要なんです。
リードは箱から取り出して、最初は1分とか、2分と短い時間で吹くのをやめて、それから少しずつ吹く時間を延ばして、徐々に水分を含ませ、慎重に調整していきます。それで、うまく育つかといったら、リード自体が期待したものではなかったり、育て方を失敗してしまったりということがよくあります。「これはいい」といい切れる100パーセント完璧なリードを育てて本番に臨めることは、奏者の人生で1~2回ぐらいではないでしょうか。
―― 一生困らないリードがあるといいですよね
本当、あるといいですよね。リードは、生きもののようで、それぞれに個性があります。このリードは音色はいいけど、反応が悪いとか、低音は出しやすいけど、高音が出しにくいとか。湿度や気温によってもコロコロ変わってしまいます。すごく難しくて、日々葛藤です。
手塩に掛けても、途中でこのリードを仕上げるのは難しいと思ったら、断念します。1箱に10本のリードが入っているのですが、通常、1回に2箱以上開けて、最初の段階で半分ぐらいは捨ててしまいます。最終的に本番で使えるのはその中の1~2本です。アマチュアの方の中には、もったいなくてなかなか手放せない人もいますが、それだと演奏の調子が悪くなってしまうんです。良くないリードに吹き方を合わせようとして、上達するどころか、悪い吹き方を覚えてしまうことが多いのです。
――楽器の管理のほかにクラリネットを吹いていて、大変な思いをしたことは?
やっぱり、思うように演奏できない時ですね。学生の頃のことですが、奏法が定まらずに、出口の見えない迷路に入り込むことがありました。全然原因が分からないのです。
例えば、マウスピースは消耗品で、劣化が避けられないのですが、その部分が不調だと、楽器全体に影響してしまいます。マウスピースが劣化しているためにリードが振動せず、それによって良い音が出なかったということがありました。でも、当時、マウスピースに原因があり、今の状態になっていると気づけなかったんです。ただただ、「何で、何で」と負の渦に引き込まれていって、吹くのがつらくなったことが学生の頃はありました。
経験を積んでいくと、「マウスピースかな」「リード、それとも、楽器のバランスの調整が悪いのかな」といった具合に分かりますけどね。
クラリネットという楽器は、繊細でさまざまな大変さはありますが、クラシックだけでなく、ジャズやポップスにも登場し、豊かな音色を奏でることができるという素晴らしさも持っています。大好きですね。
プロフィル
はやし・ゆうこ 1977年、香川・高松市生まれ。国立音楽大学を卒業後、フランスに3年間留学し、オルネイ地方音楽院、ラヴェル音楽院を卒業。留学中、ベラン音楽コンクール1等賞、ピカルディー音楽コンクール1等賞を受賞した。現在、TKWOでB♭クラリネットのセクションリーダーを務める。