元気なうちに家族で話して「死」「葬儀」「ご縁」のこと 浄土宗心光院住職・戸松義晴師

大聖堂で行われた古河教会の本部参拝で講演に立った戸松師

夫婦が元気なうちに「生きる」基本を共有

さらにもう一つ、いのちの引き継ぎということで皆さまにご提案していることがあります。

これまでの私の経験から申し上げますと、ご夫婦のどちらかが先に亡くなった場合、ご主人を亡くした直後の女性は、「私も早く主人の元に行きたい」と言ってはいても、三回忌を迎える頃には、はつらつと元気に生きていらっしゃいます。でも、奥さんを亡くした男性は、心身共に弱ってしまう人が多いですね。奥さんを亡くされたある檀家の方が、「住職さん、どうやって何を食べたらいいのか分からない」と言うのです。奥さんが家のことを全てやってくれていたから、生活が成り立たなくなってしまったのです。

「生きる」とはどういうことかというと、つまりは食事を作って食べる、掃除をする、洗濯をするということです。ですから私は男性の檀家さんには、奥さんがどうやって食事を作っているのか、掃除、洗濯をどのようにしているのかを、夫婦が元気なうちに教わっておく大切さをお伝えしています。自分が実際にやってみることで、奥さんの大変さを実感されるでしょうし、何より、生きているうちに奥さんに感謝することができます。「生きる」基本を、互いが元気なうちに共有しておくことも、いのちの引き継ぎの大事な項目の一つです。

また私は、檀家さんにエンディングノート「縁の手帳」の記載をお勧めしています。自分の人生を振り返り、ご縁があった人たちへの思いをつづるものです。私たちは皆、つながりの中に生き、つながりの中で死を迎えます。人生を支えてくださっている多くのご縁に感謝して、また自分も他の人の支えになることを願いながら、お互いさま日々を丁寧に生きてまいりましょう。

(6月18日、大聖堂で行われた立正佼成会古河教会の本部参拝から)

プロフィル

とまつ・よしはる 1953年、東京生まれ。慶應義塾大学、大正大学大学院、ハーバード大学神学校において応用神学、生命倫理学を学び神学修士号取得。現在、浄土宗心光院住職、浄土宗総合研究所主任研究員、国際医療福祉大学特任教授。全日本仏教会事務総長、日本宗教連盟事務局長などを歴任した。