「第21回奈良県宗教者フォーラム」から 大本山須磨寺の小池陽人寺務長が基調講演
第21回奈良県宗教者フォーラム(同実行委員会主催)が9月26日、奈良市の真言律宗総本山西大寺の興正殿で開催された。テーマは『宗教が社会とどう関わっていくか~社会活動・福祉の心を見つめる~』。仏教、神道、キリスト教、新宗教の指導者、市民ら約100人が参加した。
当日は、開会に先立ち、西大寺本堂で「世界平和祈願法要」が営まれた。フォーラムでは、実行委員長の辻村泰範・同寺執事長、松村隆誉・同寺長老があいさつ。続いて、大本山須磨寺の小池陽人寺務長が、『伝える布教から、繋がる布教へ~H1法話グランプリとYouTube法話を通して~』をテーマに基調講演に立った。
この後、宗教者代表によるパネルディスカッションが行われ、橿原神宮の長倉健一禰宜、春日大社の西村泰宏禰宜、東大寺の上司永照執事長、本会の坪田浩一奈良教会長が登壇。西大寺の辻村執事長が進行役を務めた。登壇者は、それぞれの寺社、教団が取り組む福祉活動、平和活動を紹介。また、宗教者が積極的に社会と関わり、苦しむ人々の声に耳を傾けていく大切さを語り合った。
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【小池陽人師 講演要旨】
約7年半前、YouTubeチャンネル「須磨寺小池陽人の随想録」を開設しました。10分前後の動画を毎週1回更新していて、法話や、他宗派の僧侶、識者との対談などを配信しています。有り難いことに、現在約7万人が登録してくださっています。
現代は、ほとんどの人がスマホなどでインターネットを利用できます。動画配信を続ければ、偶発的に仏さまの教えが届くかもしれないと考えました。しかし、私は修行中の身であり、人生経験も浅いです。背伸びをせず、未熟な自分をそのまま観て頂くつもりで収録に臨んでいます。
動画の一つに、聖徳太子がまとったといわれる世界最古の糞掃衣(ふんぞうえ)を令和の世に蘇(よみがえ)らせるプロジェクトを伝えるものがあります。今年5月に終了し、今、私が身に着けているのが完成した袈裟(けさ)です。
きっかけは、聖徳太子の師である慧慈和尚が開いた般若寺(山口・平生町)の福嶋弘昭住職が、東大寺の大仏さまの建立に込められた願いに倣い、コロナ禍の収束を祈願して始めたものです。その福嶋さんが昨年、病により50歳で急逝されたため、ご遺志を引き継がせて頂きました。福嶋さんは、私が動画配信を始めた頃から、「信じる道を行ったらいい」と励ましてくださった方です。
監修は、奈良国立博物館主任研究員の三田覚之さん。繊維会社を経営する加藤貴章さんにもご協力を頂き、須磨寺の桜を剪定(せんてい)した枝などの糸で織る「樹木布」を使いました。また、お釈迦さまが、失明した阿那律(あなりつ)のために弟子たちと袈裟を作った故事を受け、約千人の方にご協力を頂いて一緒に縫い上げました。
その後、糸の浮きを水でなじませるため、須磨寺の霊泉で清めました。しかし、直前に近所のおばあさんが大量の雑巾を洗っており、水は濁っていました。この出来事は、宗教者こそ泥にまみれ、苦しむ人のために尽くす大切さを教えてくれました。その精神を表すのが、今まとっている糞掃衣と受けとめています。
動画へのコメントに加え、視聴者からは年間300通ほどお手紙を頂きます。この中には、息子さんが自死されたり、大病で入院中だったりと、困難に直面する人も多いです。心を込めて返信させて頂く中で、いつもかみしめるのは、原発事故被災者やHIV陽性者の支援などを国内外で展開してきた、神宮寺(長野・松本市)の髙橋卓志前住職の「苦しみの現場に身を置かなきゃいけない」という言葉です。一人ひとりの悩みに真摯に向き合うことが、僧侶としての修行であると思います。匿名で、間接的だからこそ打ち明けられる事もあるでしょうから、今後も、皆さまの話に耳を傾けさせて頂きます。
また、2019年からは、45歳以下の若手僧侶が宗派を超えて集い、10分間の法話を披露する「H1法話グランプリ」を開催しています。内容の優劣や話術を競うのではなく、一人ひとりが「もう一度会いたいお坊さん」を基準に審査するのが特徴で、昨年は約1500人が来場してくれました。この取り組みは、仏教に触れる間口を広げるとともに、若手僧侶が仏教の真髄を学び、伝える研鑽(けんさん)の場になっていると感じます。
以前、その大会で基調講演をされた奈良国立博物館の西山厚名誉館員は、「僧侶の本分は聞くことである」と仰(おっしゃ)いました。お釈迦さまは、一人ひとりの苦しみを聞き取ったからこそ、それぞれに応じた教えを説くことができたと教えて頂きました。仏さまの教えを深く学ぶとともに、相手の話を傾聴する。それが宗教者の役割であり、社会と関わるための大切な姿勢であると受けとめ、精進していきます。