人を一人にしない、つながり続ける 「大きな家族」を地域の中で NPO法人「抱樸」理事長・日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師 奥田知志氏

「壮年(ダーナ)総会」で講演に立つ奥田氏

「抱樸(ほうぼく)」の活動は今年で33年目になります。抱樸とは、原木や荒木(樸)をそのまま抱き取るという意味です。そのような人との出会い方を大切にし、困っている人、苦しんでいる人を条件をつけずに受け入れてきました。原木はいつか、机や椅子になって人の役に立つ、楽器として人を和ませる――そう信じて、一人ひとりに寄り添ってきたのです。抱樸は、「人を信じる」ことでもあります。

ささくれ立ち、棘(とげ)のある原木や荒木を抱きしめれば、体に傷がつくように、人を丸ごと受けとめると、多少なりとも傷つきます。「絆(きずな)」は「傷(きず)」を含みます。しかし、その痛みが生きている実感となり、人と共に生きているという証しにもなるのです。

私たちは、「人を一人にしない」「つながり続ける」ことを大事にしてきました。「抱樸」の事業は全て、人との出会いから始まったものです。苦しんでいる人に対して何ができるかと考えるうちに、居住支援、就労支援、家族の生活支援、障害福祉、介護事業と、一つひとつ事業が立ち上がり、現在は27の事業にまで広がりました。宗教者として、人を大切にし、いのちを大切にしていく。その触れ合いの輪が、そのまま「抱樸」の活動として広がってきたのです。

路上生活をしている人は皆、「畳の上で死にたい」と言います。そこで、住宅をあっせんし、これで安心してもらえるかと思ったら、ある男性が「俺の最期は誰が看取ってくれるだろうか」とつぶやきました。生活困窮者への支援では、「この人には何が必要か」と同時に、「この人には誰が必要か」という視点が必要なのだと実感しました。

「この人には何が必要か」「この人には誰が必要か」――この二つの課題はそれぞれ、「ハウスレス」「ホームレス」という言葉で象徴的に表現できると思います。家がない、お金がない、仕事がないといった経済的困窮が「ハウスレス」。一方で、家族がいない、友達がいない、心配してくれる人がいないという社会的孤立が「ホームレス」。私たちは当初から、この二つの問題の解決に取り組んできました。

奥田氏は人と人とのつながりの大切さを強調した

経済的困窮と社会的孤立は、相互に関係し合っています。「金の切れ目が縁の切れ目」といいますが、経済的に困窮すると、人との縁(えにし)が途切れ、社会参加も難しくなります。反対に、人との縁がなくなることで、経済的な困窮を招きます。ある男性は、離婚後、子供と母親を養うために、一生懸命働きました。でも、母親が亡くなり、子供が独立すると、また以前の怠惰な生活に戻ってしまったのです。そして、気づけば、野宿生活を送っていたといいます。これは、「縁の切れ目が金の切れ目」となったケースです。このように、他者の存在は、人間に生きる意欲や働く動機を与えるのです。

ホームレスの人たちは、自分たちの食べ物を「エサ」と言います。でも、私たちが毎週、生活困窮者への炊き出しとして配っている弁当を「エサ」とは呼びません。なぜでしょうか。それは、弁当という「物」に「人」が関わることで、そこに「物語」が生まれるからです。人は、それぞれの「物語」を生きています。人と人との関係の中で、その「物語」を生み出し、相手に生きる意欲を起こしてもらうのが、支援の本質だと思います。

私たちは、困窮家庭を訪問して生活全般を支援する取り組みも行っています。その中で、親が十分に子供の面倒を見ない「育児放棄」の場面に出くわすことがあります。自分の子供にここまで冷たくできるのかと、怒りさえ感じることもありました。でも、よくよく話を聞くと、その親自身も、子供の頃に親から満足に面倒を見てもらっていなかったのです。人間は、自分がしてもらっていないことを人にはできないのです。

本来、親から「愛」という水を注いでもらわなければならなかったコップが、空になっている。それでは、自分の子供にも水を飲ませることができません。親がコップに水を注げなかったのなら、周りの人が注いであげればいいのです。コップに水が満たされれば、その水は必ず次の世代へと引き継がれていきます。それが「社会的相続」です。

イエスは、「わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」と言われました。愛は引き継がれるもの――愛された人が、愛する人になれるのです。社会的な孤立化が進み、単身世帯も増える中で、従来家族が担ってきた役割をどのようにみんなで分け合っていくか、「社会化」していくかが問われています。誰もが安心して帰れる場所、そんな「大きな家族」を地域の中で皆さんと一緒につくっていきたいと思います。

(6月20日、「壮年=ダーナ=総会」から。文責在記者)

プロフィル

おくだ・ともし 1963年、滋賀県生まれ。日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人「抱樸」理事長。関西学院大学在学中から大阪・釜ヶ崎(あいりん地区)で路上生活者の支援活動にかかわる。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)など。