沖縄県うるま市の中高生がつくる奇跡の舞台~肝高の阿麻和利~ 演出家・平田大一氏
ある時、中学3年生の男の子は、私のような仕事をしたいと言ってきました。どんな仕事だと思っているのかを聞いてみると、その子は「地域に根差して人に尽くす仕事でしょ?」と答えました。子供たちは大人が思っている以上にちゃんと物事を見ている――子供たちの成長を目の当たりにして、私にとって舞台づくりが大きな意味を持つようになりました。
舞台ではなく、人をつくる。それが私の仕事です。人づくりのために文化や芸術を活用するのが私のスタンスです。舞台では200人近くのメンバーが一糸乱れず動き回るのですが、歌や踊りがうまいとか、頭が切れるといった見方でリーダーを選びません。もちろんその視点も舞台には必要ですが、私が大事にしているのは「面倒見のいい人」です。なぜなら、その人の周りにはいつも人がいるからです。
社会や職場で求められるリーダーも面倒見が良い人なのではないでしょうか。言い換えれば、受けとめる力がある人。どんな無理難題でも、「オーケー、大丈夫」と言える人。舞台でのリーダーを「ジョイントリーダー」と呼んでいますが、彼らはどんな状況でも、絶対にノーと言いません。面倒見の良い心を育て、受けとめる力を養う。私が目指している舞台づくりの根幹です。
「褒め出し7のダメ出し3」も大切にしていることです。順番が大切で、ダメ出しを先に言った瞬間に子供たちの心は折れ、閉ざされます。良いところを最大限に褒め、「こうするともっとよくなる」と伝えると、ダメ出しはアドバイスに変わります。すると、子供たちもどんどん心を開いていく。そして何より、“まじめな演技より素直な演技”というのが私の舞台の最大のこだわりだと自負しています。
舞台を通して子供が変わる。子供が変わると大人が変わる。大人が変わると地域が変わる。「誇り高い」「心豊かな」子供を育て、人づくり、地域づくりに貢献したいと思っています。
(6月8日、立正佼成会のセレニティホールで行われた認定NPO法人「テラ・ルネッサンス」世界会議2018から)
プロフィル
ひらた・だいいち 1968年沖縄県小浜島生まれ。大学生の頃から「南島詩人」を名乗り、詩、笛、太鼓、三線、舞を駆使した学校公演を1800校以上で開催。2000年からは、うるま市(旧勝連町)で「肝高の阿麻和利」の舞台を演出。演出家・脚本家・詩作家・地域活性家として活躍している。13年、公益財団法人「沖縄県文化振興会」理事長に就任(2017年6月21日に退任)。主な著書に『前略 南ぬシマジマ』(ボーダーインク)。