全ての子がスペシャル 一人ひとりに目を向ける「特別支援教育」の理念を今こそ 関西国際大学教育学部教授・中尾繁樹氏
特別支援教育の専門家として、これまで3000校以上の小・中・高等学校を訪問し、40万人以上の子供たちと会ってきました。一人ひとりが何につまずいているか、どんな接し方をしたらいいかを理解し、先生や親にアドバイスをする仕事を20年以上続けています。
「特別支援教育」を、ほとんどの人が「障害児教育」だと思っているようです。しかし、そうではありません。2007年の学校教育法改正に伴って、「特殊教育」が「特別支援教育」に変更になりました。なぜ、名称を変えたのか――。障害の有無にかかわらず、全ての子供、一人ひとりに目を向け、それぞれに応じた教育を行っていくのが、特別支援教育だからです。
皆さんも、自分をよく見てみると、不器用なところと、器用にこなせることがあるでしょう。だから、僕は障害があるとかないとか、そういう区別の仕方よりも、どの人にもそれぞれに個性や特長、苦手なことがあって、みんな違う人間だと考えることが重要だと思います。例えば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された方が100人いるとして、100人いれば全て違うのですから、「彼は、ADHDだから、こうしましょう」という考え方は、絶対おかしいのです。
3歳児検診が終わった頃に、泣きながら僕のところを訪れるお母さんがいます。「先生、うちの子、自閉症って診断されました。自閉症ってどうやって育てたらいいですか」と相談されます。この時、僕はいつもお母さんを目の前にしてはっきりこうお伝えします。「ごめんね、おかあちゃん。自閉症の相談だったらよそに行ってくれる?」と。すると、お母さんは「えっ、何でですか? ドクターから言われて、来たんですけど、先生しか見てもらえる人がいないんです」と言われるので、「あんな。この子、自閉症という名前と違うやろ? けんちゃんって、ちゃんと名前があるやんか。俺、けんちゃんの相談だったらいくらでも乗るけど、自閉症の相談だったら、よそに行ってくれる?」と返すことが多くあります。
お母さんもお父さんも「自閉症の子」という見方で子供に接すると、自閉症しか目に入りません。そうではなく、「けんちゃん」と見たら、「めっちゃおもろい子やな」となります。自閉症というくくりで、全ての子が一緒だとは見ずに、それぞれの子供たちをさまざまな角度から見る手立てを私たちが多く持っていたら、子供たちの良いところがたくさん見えてきます。その見方をきちんと推奨していくのが、特別支援教育です。