【関西大学教授・串崎真志さん】繊細さは豊かな内面がある証し その特性を発揮して自分らしく

思いを感じ取れるからこそ 周囲の人と深く助け合える

――一方で、繊細な性格が長所となる場面は?

私は、繊細さとは本来、細かいところにまで注意を向けられて、そこから多くのことを感じ取れる力だと考えています。「多感力」とも表せます。HSPの中には、「繊細な性格を何とかしたい」とおっしゃる方が多いのですが、むしろその繊細さを長所として捉え、伸ばしていって頂きたいと思っています。

まず、繊細な人は他者への関心が人一倍強く、相手の立場や心情に共感する力が非常に高いです。友人がつらい思いをしていると、すぐに分かりますし、親が不機嫌になっているとき、繊細な子供がそれを察知して泣き出す、といった例もよく聞きます。そして、繊細な人には空想が得意な人も多い。それは、豊かな内面を持っている証しであり、目の前の出来事から離れて想像を膨らませ、新しいものを生み出す力とも言えます。

こうした特徴をうまく伸ばすと、自分らしさを発揮し、さまざまな場で活躍していけると思います。例えば、共感力を生かして、人を支える側になることもできます。職業でいえば、医療や福祉、教育関係などがありますね。日常生活の中でも、困っている人の相談に深く耳を傾けることに向いています。相手の力になれたり、「話してよかった」と言ってもらえたりすることで、自分の繊細な部分をより受け入れられるようになります。ただ、真面目な分、一生懸命に取り組み過ぎて疲れてしまうこともあるので、自分も他の人も共に楽しく過ごせるよう、バランスを取ることが大事です。

また、想像力を生かして、芸術、アートの分野に力を発揮される方もいます。日常生活の中にあっても、料理をする際に繊細で上品な味付けを施すなど、ほかの人と違う感性を持って、クリエーティブな能力を伸ばしても良いですね。

「人とつながることがつらい」という悩みが一番多く聞かれますが、実はそこが突破口になることもあります。繊細に気持ちを感じ取れるからこそ、周囲の人と深く助け合える関係をつくれるので、どうか諦めずに、多くの人とつながる中で、社会に貢献できる力を発揮していってください。

――HSPの人が自分らしく生きていく上で大切なことは

日常生活で大切なのは、気持ちを切り替える工夫をすることです。繊細な人は、ネガティブな感情を引きずってしまいがちなので、それを自分で調整できるようになれば、ずいぶん楽になります。当事者の方からはよく、お風呂にゆっくり漬かるのが良いと聞きますね。副交感神経が優位になるので緊張がほぐれ、リラックスできます。また、自然に触れることが好きという方も多くいます。近所の公園を散歩したり、足を延ばして山や川へ出かけたりするなどして、新鮮な空気を吸い、自分の中に元気をもらうことも効果的です。

そして、HSPの方にお勧めしたいのは、「水を得た魚」になること、つまり自分の特徴を知り、長所として生かせる関係や環境に出会っていくことです。素直に気持ちを伝えられる相手や、自分の優しさや思いやりを発揮できる場所を探したり、深く物事を考える時間を取ったりすることが大切です。特に、自分と同じように繊細な感覚を持つ友達がいると、気持ちが通じ合って心が楽になります。それが、日常生活でさまざまな人と関わっていくエネルギーにもなるのです。

それから、HSPでない方の中には、家庭内や同じ職場、学校などに繊細な人がいたら、どう接すればよいのかと感じる方もいらっしゃると思います。簡単に言えば、当事者が自分のペースを守りながら、日常のことをうまくできるように尊重してあげられたらいいですね。

個々の事情もあるでしょうから、すぐに対応するのは難しいかもしれません。大事なのは、あくまで無理のない範囲で「理解」していくという姿勢です。例えば、HSPの中には、大きな声を出す人が怖いという方がいます。大きな声の方に悪気はないかもしれませんし、ささいなことにも見えますが、どんなことが気になってしまうかは、人それぞれに異なるのです。

HSPの性格は、一般的に見ると、ちょっと不思議に映るかもしれません。ですが、繊細な人の話に限らず、「自分と違う人もいるのだ」とお互いに理解し合うことが大切です。多様な個性を持った人がいると知った上で、双方の接点を探し、お互いが無理なく接することができる距離や方法を見つけて頂ければと思います。

プロフィル

くしざき・まさし 1970年、山口県生まれ。愛媛大学卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。現在、関西大学文学部教授を務める。専門は臨床心理学。著書に『繊細すぎてしんどいあなたへ HSP相談室』『悩みとつきあおう』(ともに岩波ジュニア新書)、『繊細な心の科学 HSP入門』(風間書房)など多数。