【国立病院機構久里浜医療センター院長・樋口進さん】ゲーム依存に陥る若者が増加 生活に支障を来す深刻な問題
問題生じたら医療機関へ 長い目で見守りを続けて
――有効な予防や治療とは
依存症の疑いがある場合は、日常生活に「明確な問題」が起きる前にゲームの時間を減らしましょう。自力でゲームとの距離を保てれば、依存に陥る可能性は低くなります。
すでに、「明確な問題」が生じている場合は、相手の心情を理解するために、熱中しているゲームについて知ることが必要です。彼らなりの理由があってゲームを続けるわけですから、頭ごなしに否定したり、無理やり取り上げたりすると、信頼関係の喪失につながり、治療や回復への妨げとなります。
来院する青少年に話を聞くと、ゲームを続けて学校や会社に行けないことに劣等感を持ち、苦しんでいるケースが多く見受けられます。親はその気持ちを受けとめ、少しでも努力や改善を目にしたら精いっぱい褒めることがとても大事になります。
ただ、すぐに状況は改善しませんから、触れ合いを重ねて子供の自己肯定感を高め、現実生活での役割を少しずつ増やし、充実感につなげていくことをアドバイスしています。
その後、現実生活でゲームに代わるものに時間を費やせるようにすることが大切です。例えば、プレーの時間を削って勉強に置き換えてみる。最初は少しの時間でも、継続することで自信が生まれ、資格を取るなどの目標を達成できると、さらによいでしょう。16歳以上であれば、アルバイトを勧めるのも有用です。労働の対価として給与を得る大変さを感じられますし、社会の中で役割を果たす意義やその価値、周囲と関係を築く大切さも学べます。
そして、ある程度の時間が経過したら振り返りをします。少しの変化でもあればいいのです。諦めずに長い目で見守り、家族間で対話を進めていけば依存状態は改善していきます。
――迅速な対応が重要なのですね
ゲーム依存は、とても速く進行します。オンラインのゲームは熱中したプレーヤーを引き留める工夫がいくつもしてあるので、「そのうち飽きてやめる」ということはありません。「明確な問題」が生じていたら、医療機関の受診を検討してください。
各自治体には「精神保健福祉センター」があります。インターネットやゲームの依存について専門的に診ている最寄りの医療機関を紹介してくれるでしょう。ゲーム依存に特化した民間のカウンセリングもあります。課金の問題であれば消費生活センターが相談に応じてくれます。返金の対象となる場合もあるようです。
依存症の治療には家族の協力が不可欠です。しかし、家族も不安や悩みを抱えてしまいますから、当院では、同じ問題を抱える親同士が集い、胸の内を話し合う家族会を開催しています。参加者に話を聞くと、孤独感が和らいだり、改善への希望を持てたりする機会になっているようです。
ゲーム依存の問題は、専門知識を持たない人が助言しても状況の改善を見込めないことが多いでしょう。困っていても治療につながる情報にアクセスできない人も多いと思います。もし、心当たりの人が周囲にいたら、医療機関へとつなぎ、長い目で見守りを続けて頂けたらと願います。
プロフィル
ひぐち・すすむ 1954年、山梨県生まれ。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長。東北大学医学部卒業。米国立保健研究所留学、国立療養所久里浜病院(現・独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)の臨床研究部長などを経て現職。主な著作に『ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本』(法研)、『Q&Aでわかる子どものネット依存とゲーム障害』(少年写真新聞社)など。