【国立病院機構久里浜医療センター院長・樋口進さん】ゲーム依存に陥る若者が増加 生活に支障を来す深刻な問題

スマートフォンやパソコンでインターネットを使ったゲームを気軽に楽しめるようになり、長時間プレーによって日常生活に深刻な問題を来す「ゲーム依存」の青少年が増えている。新型コロナウイルス感染症の流行による自粛生活で、プレー時間が増えたことも一因になっているという。依存症の専門家である国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長に、ゲーム依存の現状と、予防や治療について話を聞いた。

競争を煽るギャンブルに似た構造が、依存性を高め

――「ゲーム依存」とは、どのような状態ですか

世界保健機関(WHO)は2019年、病気の分類を表した「国際疾病分類(ICD)」の最新版に、「ゲーム障害」の診断ガイドラインを追加しました。これは、ゲームを長時間プレーすることで、長期にわたり日常生活で「明確な問題」が生じるというものです。自らの意思でやめるのが難しく、ギャンブルや薬物などの依存症と類似していることから、「ゲーム依存」ともいわれます。

「明確な問題」とは、昼夜逆転の生活が続いて学校や会社を休む、人からの注意に逆上して暴力を振るう、部屋に引きこもるなどが挙げられます。さらに、運動不足による体力の低下、食事回数の減少に伴う栄養の偏りなどもあり、心身に大きな影響を与えます。こうした状況が起きている場合は、治療を含めた何らかの対応が必要です。

ゲーム依存を引き起こす大きな要因となっているのが、インターネットを使ったゲームです。当院を受診する患者の約90%がオンラインのゲームで依存に陥っています。無料のものが多く、簡単に始められることに加え、アップデートを繰り返すことで「クリア」という明確な終わりがなく、終了できないのです。また、プレーヤー同士を戦わせて競争を煽(あお)ったり、定期的に希少なアイテムを獲得できるイベントを開催したりし、飽きさせない仕組みになっています。

スマホのゲームに多い「ガチャ」というシステムも問題視されています。これは、ゲームに一定額を課金すると、攻略しやすくなるアイテムやキャラクターをランダムに獲得できるものです。プレーヤーは非常に低い確率に設定された当たりを引こうと高揚し、豪華で思わせぶりな演出に射幸心を煽られて課金を続けます。つぎ込んだお金を無駄にしたくないという心理も働いて、「やめ時」を見いだしづらいのです。これは、ギャンブルに似た構造で依存性を高めます。

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こうしたゲームを体験すると、特に精神が未成熟で衝動を抑えられない青少年は、のめり込んでいくことになります。当院の患者も70%が未成年で、全体の半分が中高生です。これに似た状況は、世界中で見られます。

その上、新型コロナウイルス感染症の流行による長引く自粛生活も、ゲーム時間の増加につながっています。一日のゲーム時間が10時間を超える人もおり、コロナ禍の前より症状が悪化しているケースは多いのです。当院では、1カ月分の予約が30分程度でいっぱいになります。遠方の方のためにオンラインの診療も行っていますが、受診の希望は後を絶ちません。

――誰もが「ゲーム依存」に陥る可能性はありますか

最近は、スマホの普及で簡単にオンラインのゲームをプレーできるようになりました。攻略方法を紹介する動画サイトやプレーヤー同士をつなぐSNSもたくさんあります。“いつでも、どこでも”遊べるため、生活の中でのゲーム時間が増えやすいのです。

依存状態が進行すると、社会的、理性的な判断を下す前頭葉の前頭前野の機能が低下することが確認されています。同時に、欲望や快感、不安などの感情をつかさどる大脳辺縁系の働きの抑制が効かなくなります。これは、全ての依存症に共通する特徴です。

また、興奮や多幸感などの刺激が一定の期間続くと、脳は慣れてしまい、より強い刺激を求めることも依存につながっています。

一方、これまでの研究成果から、ゲーム依存に陥りやすい「危険要因」の傾向が分かってきました。それは、現実生活に友人がほとんどいない、幼い頃からゲームを愛好している、男性であるなどです。バーチャルの世界は面白く設計されていて、プレーが上達すれば周囲から褒められることもあるでしょう。そこに居場所を見いだし、現実逃避としてのめり込む形態は依存症への一つのプロセスと言えます。

言い換えれば、「日常生活が充実している」「現実生活で自分の役割を果たしている」という人は、依存しにくいわけです。また、青少年の場合は親子関係が大きく影響しますから、親は家庭のあり方を見直していくことが大切です。

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