【日本ほめる達人協会理事長・西村貴好さん】褒めることは思いやりの意思表示 人を生かし、自らを幸せにする

心の底から相手を褒めると、あなた自身が輝く人になる

――日頃の心がけによって「心の居場所」が生まれるのですね

そうです。相手がどのような立場でも、特別なことをせずに、「あなたを大切に思っている」と伝えることができます。まずは、あいさつに一言付け加えてください。「おはようございます。だいぶ暖かくなってきましたね」「お久しぶりです。お元気でしたか」。あるいは、「○○さん、おはよう」と、相手の名前を出してあいさつするのも効果的です。「お! おはよう」の一言も、立ち止まってするといいですよ。「あなたに会えてうれしい」という思いを込められれば大丈夫です。

あとは、話の聞き方です。八つのポイントがあります。「目を見る」「うなずく」「相槌(あいづち)を打つ」「繰り返す」「メモを取る」「要約する」「質問する」「感情を込める」。実は、これは皆さんが普段していることです。誰にしているかというと、大好きな人、尊敬する人、興味がある人に対してです。

ただし、部下や家族に対して、そうしているでしょうか? スポーツのヒーローインタビューを参考に、こうした小さな実践を積み重ねてみてください。

――日本人は褒めるのが苦手といわれます。褒めるポイントはありますか

頑張っている姿を見かけたり、うまくできたことがあったりしたら、すかさずその人を褒めることです。褒め惜しみはいけません。

褒めるポイントの一つ目は、事実を褒めることです。二つ目に、その事実が人の役に立っていることを伝えます。例えば「素敵(すてき)な笑顔ですね、なんだか私の心まで明るくなります」というように。三つ目に、相手が「滅相もない」と恐縮した場合には第三者の声を加えます。それでも信じてもらえないなら、こちらが感じたありのままを伝え、褒めると良いでしょう。

一方、相手をコントロールしようとして褒めることは、絶対にしてはいけません。その思惑は必ず相手に伝わります。

また、他人と比べて褒めることも良くありません。比べるとすれば、その人の過去と比較して、今どれだけ変化、成長したかを見て褒めるのです。その人の頑張りをたたえることで、成長の種を蒔(ま)くことができます。

――褒めることで、たくさんの効用がもたらされるのですね

そうなのですが、実は最大の効用は、褒める側の人が幸せになれることにあるのです。

「ほめ達!」を家庭で実践された方からよく聞くのは、パートナーや子供を褒めるようになって家族が優しくなったと思っていたら、家族から「変わったのはあなたの方」と言われたという話です。

心の底から相手を信頼して褒めるようになると、その人自身に笑顔が増え、前向きな気持ちになります。心が整いますから、周囲から精神的に余裕のある人に見られます。褒めることで、その人自身の内面や表情が和らぎ、自然と人間関係が良くなっていくのです。

私もホテル経営をしていた時、従業員を褒めるよう心がけてから、以前より一人ひとりを理解できるようになり、抱えていた不安が徐々に消えて生きやすくなりました。

今では、人の良さをたたえ、安心感を与えられる人が最も幸せになると思っています。まさに、「褒めるは人のためならず」です。
(写真は全て、日本ほめる達人協会提供)

プロフィル

にしむら・たかよし 1968年、大阪府生まれ。関西大学卒業後、不動産会社に入社。家業のホテル経営で経験を積み、2005年に覆面調査会社「C’s」を創業する。10年に「ほめ達!」検定をスタートさせ、翌年、一般社団法人・日本ほめる達人協会を設立。著書に『ほめ下手だから上手くいく』(ユサブル)など。