【日本ほめる達人協会理事長・西村貴好さん】褒めることは思いやりの意思表示 人を生かし、自らを幸せにする

褒められると、人は生き生きとしてくる。しかし、日本人は相手の欠点に目がいきがちで、褒めるのは苦手だといわれる。一般社団法人・日本ほめる達人協会では、独自の検定や講演活動を通し、「ほめる達人(ほめ達!)」の普及に取り組んでいる。伝授するのは、触れ合う相手の良さや特有の価値を見いだして、信頼関係を基に互いが高まっていく考え方やコミュニケーションの方法だ。「誰もが尊敬し合える世界にすることがモットー」と語る西村貴好理事長に、褒めることの効用や秘訣(ひけつ)を聞いた。

相手の良さを認めることは、駄目出しよりも大事だった

――人を褒める、その重要性に気づいたきっかけは何ですか

僕は元々、人の細かい部分が気になる性格で、いわゆる「駄目出し」が得意でした。家業のホテル経営の傍ら、その能力を生かして、各企業の人材育成や運営をサポートする覆面調査会社を2005年に立ち上げました。飲食店やサービス業の経営者から依頼を受けて従業員の仕事ぶりを視察し、改善点などを報告するのですが、結論から言うと、いくら駄目出しをしても従業員の行動は改善されませんでした。ついには取引先から、「指摘は正しいかもしれないけれど、聞くのがつらいので調査終了を」と契約を打ち切られることもありました。私は仕事のあり方を見直すよう迫られていたのです。

その矢先、大手焼き鳥チェーンから、大阪のある店舗で夕方の集客が悪いので調査してほしいとの依頼がありました。伺うと、お店の広さに対してスタッフが少なく、料理が出てくるまでに時間がかかる、笑顔での接客はなされているものの私語が多いなど、改善点が目立ちました。それでも、調査員の一人が、あるアルバイトの若い女性店員がとても頑張っている様子をリポートしていました。「客が帰った後、テーブルを一生懸命に丁寧に拭いている」「忘れ物の確認を丹念に行っている」といった具合です。

そこで報告書には、「改善点はたくさんありますが、その頑張っているスタッフがいる、このお店のこれからの成長が楽しみです」と書きました。報告書は社長から店長に渡り、スタッフが休憩するバックヤードに貼られました。

実はこのアルバイト店員は、丁寧な仕事ぶりで客の少ない夕方は良いけれど、忙しくなるとミスを連発し、仕事の覚えも悪いため、店では「ダメダメバイト」というレッテルを貼られていたのです。でも、店長はこの時、報告書を目にした彼女に、「君の仕事の丁寧さを、これからの基準にしたい」と伝えたのだそうです。

すると、彼女は俄然(がぜん)やる気を出し、丁寧さはそのままに、仕事のスピードを上げてもミスをしなくなっていきました。また、たくさん失敗してきた分、その経験を基に新人にうまくアドバイスできる有能な先輩になっていったのです。調査から3カ月後、7店舗130人の中から、彼女が最優秀アルバイトに選ばれました。さらにその3カ月後、店の売り上げは前年同月比で1.6倍になりました。

――アルバイト店員はなぜ飛躍的な成長を遂げたのでしょうか

褒められたことで、彼女が「自分の存在を認められた」と感じることができた点が大きいと思います。つまり、職場に「自分の居場所がある」という安心感――これを私は「心の居場所」と呼んでいるのですが、これを持てたことが成長の原動力になったわけです。

その店舗を長年観察する中でさらに気づかされたことがあります。それは、従業員が上司や会社から「見守ってもらっている」と感じるか、「見張られている」と感じるかで、店の雰囲気や従業員間のコミュニケーションに大きな違いが生じ、業績にも差が出るということです。普段から上司にプラス評価の言葉をかけてもらい、感謝され、大変な時に共感してもらっていると、時に叱られたり、注意されたりしても、相手はアドバイスとして素直に受け取ることができます。一方、常に無言で仕事ぶりを確認され、できていれば何も言われず、できていない時だけ注意されると、相手は「自分は認められていない」と感じて、上司の言葉を受け入れることができなくなってしまうのです。

「見守ってもらっている」と感じるか、あるいは「見張られている」と感じるかは、日頃「ねぎらいの言葉」をかけられているか否かで決まります。ねぎらいは、こちらが相手の存在を認めているという意思表示であり、相手に安心感や自信を生じさせる重要な行為なのですが、実際にはなかなか行われていません。なぜかというと、多くの上司が「社員は仕事をして当たり前」といった意識で部下を見ているからです。人は当たり前だと思うことに感謝しません。「当たり前」という意識や相手に対する先入観を捨て、感謝の言葉をかけていくことが重要です。

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