【ピースボート共同代表・川崎哲さん】核兵器禁止条約が発効した今 世界が連携し、さらなる歩みを

日本は被爆国として対話の場へ

――日本政府は、核軍縮への進展に向けて核兵器国と非核兵器国の「橋渡し」の役割を担うとする一方、核兵器禁止条約には署名しない考えを表明しています

日本の安全保障は米国の「核の傘」に依存しており、米国との関係上、核兵器の使用や保有を「援助・奨励」する立場にあります。ですから、政府は条約に参加することはできないとの方針なのでしょう。今後行われる締約国会議についても、日本政府はオブザーバー参加でさえ、「慎重に見極める」としています。しかし、橋渡し役を掲げるのであれば、対話の場への参加は不可欠だと思います。

締約国会議では、核廃棄の具体的な検証方法が話し合われる予定です。この条約の下で核保有国が将来、核兵器をなくし、二度と造らない状態に持っていくために必要な議論です。

また、核実験などの「被害者支援」や「環境回復」についての方法も協議されます。日本が廃棄の検証の議論に参加することは、今後、北朝鮮の非核化に取り組む上でメリットになるはずです。さらに日本は、被爆者援護法の下で、広島・長崎の被爆者への援助に一定程度取り組んできました。被爆者が健康と権利を求めて闘ってきた膨大な記録資料もあり、それらを核実験被害者の救済と権利保障のために生かすことは、戦争被爆国として大いに意味のある、世界への貢献だと思います。

――日本の参加に向けて、何かよい兆しは見受けられますか

さまざまな団体から政府に対し、参加を求める要望がなされています。各地の地方議会からも条約への加盟を求める意見書が出されています。現時点で、全自治体の約3割、532の市区町村に上ります。与野党の国会議員からも、締約国会議へのオブザーバー参加を求める声が上がっています。

ICANでは、世界の国会議員を対象に、署名活動を行っています。国会議員が核兵器禁止条約への賛同を示し、政府に働きかけることを表明するものです。これを活用し、日本では大学生と共に「議員ウォッチ」というウェブサイトを作り、市民が国会議員の条約への態度を見られるようにしました。今年は総選挙もありますから、有権者に役立ててもらえればと考えています。

やはり、必要なのは市民一人ひとりの行動です。核兵器の問題は外交案件でもありますから、「自分とは遠い話だ」とか、「私一人が考えても」といった考えを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、長年「成立は無理」と言われてきた核兵器禁止条約が、世界の人々の連携によって現実のものとなったのですから、一人ひとりが関心を高めて、できることから行動に移せば、政府も方針を変えるでしょう。念願である核廃絶も実現できるはずです。

皆で協力し合い、ひるまずに前に進んでいきたいと願っています。
(写真は全て、ピースボート提供)

プロフィル

かわさき・あきら 1968年、東京都生まれ。ピースボート共同代表。東京大学卒業後、NPO法人ピースデポの事務局長などを経て現職。ICAN国際運営委員を務める。著書に『新版 核兵器を禁止する――条約が世界を変える』(岩波ブックレット)など。