【オイカワデニム代表取締役・及川洋さん】新たな資源でジーンズを開発 環境に配慮したものづくりを

震災で物の価値認識の変化 利益を社会に還元する大切さ

――東日本大震災を機に経営者として何が変わったのですか?

一番は、物やお金に対する価値認識の変化です。会社を経営しているわけですから、利益を出すことはとても重要です。より高い利益を出すことは当然だと思っていました。

一方、震災当時は物がない状態でしたから、お金をいくら持っていてもガソリン1リットル、ペットボトルの水1本すら買えず、〈お金って何だろう〉と考えさせられました。そこで気づかされたのは、従業員とその家族を養うために利益を上げることと同時に、一定以上に得た利益は、廃棄物や未利用資源を活用した新たな商品開発や、養護施設などへの寄付、各地で起きる災害の支援などに充て、社会に還元していく大切さでした。

震災では、世界中からたくさんの支援を頂きました。その恩返しになればと思い、震災後に新たなブランドをつくって、売り上げを地元・気仙沼市や各地の災害支援などに寄付しています。

――ものづくりで大切にしていくべきこととは

物を作る側の視点ではなく、使う人々の立場、さらに環境のことを考えて、長く愛される良い物を作る責任があると思うようになりました。

気仙沼はメカジキの水揚げ日本一を誇る

今の世の中は、不便を解消するためにさまざまな技術が進化してきました。しかし、便利になった半面、失われていったものもたくさんあるように感じています。アパレルに関して言えば、ひと昔前は、衣服の破れた箇所を補修したり、おばあちゃんの着物をリメイクして孫が着たりと、物に愛着を持ち、長く、大切に使っていました。

物を長く使うことは、大量に生産し、消費するというサイクルではなくなるため、一面的には物流が悪くなり、販売量が減っていくように思われるかもしれません。しかし、各企業の努力・工夫によって、大量生産ゆえに売れ残り、そのまま廃棄されていたロスがなくなって、商品の消化率が上がっていけば、適正な利益が得られると考えています。

また、日本の企業は、土に還るポリエステルや衣服に使われた綿からバイオエタノールを精製する技術を開発するなど、実は環境に対して非常に高い意識と優れた技術を持っています。人々の環境意識がより一層高まり、そうした技術がさらに生かされて、商品づくりにつながっていく社会になればと願っています。

――消費者である私たちが心がけることはありますか

物がたくさんあり、それを自由に選ぶことができる社会はとてもいい環境です。ただ、「割引されているから」と必要でない物を買ったり、買うことだけで満足したりして、ほとんど使わずに捨ててしまっていることはないでしょうか。人が物を持てる量、使える量には限りがあります。そのことをもう一度よく考え、それぞれが本当に必要な物を買い、大切に使っていくことを心がけていけば、環境問題も少しずつ改善に向かっていくと思います。商品開発や販売の仕組みにも影響を与えるでしょう。これからの時代を担っていく若い方々には特に、しっかりとした価値観や考え方を大事にし、物を大切に使う文化をつくっていってほしいと願います。私も生産者として、それに応える物を作っていきます。

プロフィル

おいかわ・ひろし 1973年、宮城県生まれ。気仙沼高校を卒業後、家業のオイカワデニムに入社。企画やデザイン、営業を担当し、2004年に常務取締役。16年に代表取締役に就任した。現在、従業員22人と共に、オリジナルブランド「STUDIO ZERO」「OIKAWA DENIM」「SHIRO…0819」の3ブランドを手掛けている。

及川さんの活動を紹介した児童書『デニムさん 気仙沼・オイカワデニムが作る復興のジーンズ』(佼成出版社)