【グリーフサポートステーション「サンザシの家」代表・藤田尋美さん】喪失体験で悲嘆抱える一人ひとりに耳を傾け

グリーフサポート 「サンザシの家」の藤田代表

病気や事故で親を亡くした。両親の離婚で一方の親とは別に暮らしている――そうした死別や離別によって悲しみを抱えた子どもたちの心に寄り添う人たちがいる。東京・板橋区にあるグリーフサポートステーション「サンザシの家」では、2013年から、死別や離別を経験した子どもたちのグリーフ(悲嘆)サポートに取り組んできた。子どもたちの内面と悲嘆からの回復について、藤田尋美代表に聞いた。

閉ざされた感情と向き合うサポート

――死別や親の離婚を経験した子どもたちの内面への影響は?

死別や離別を経験した子の多くがグリーフ(悲嘆)を抱えているのは事実ですが、子どもたちの心の状態は、一人ひとり違います。一言で表すことはできません。

例えば、多くの子が「寂しい」と表現していても、それが「会いたい」という哀惜の念の場合もあれば、「なぜ自分には親がいないのか?」という切なさや虚(むな)しさの場合もあります。「どうして自分がこのような境遇なのか」という現実に対する嘆きといった感情が入り交じっていることもあるのです。

中には、あまり悲しんでいるように見えない子もいます。物心がついた時、すでに一方の親とは離れて暮らしているため、「喪失」の実感がなく、現状に疑問を抱くことが少ないようです。そうした子も、保育園や小学校などの集団生活を送り始めると、「自分の家庭は他と違うかも?」と感じることはあります。いずれにせよ、グリーフを抱えた子が自らそれを理解することは難しく、また誰かに助けを求めることもめったにしないので、周りの大人がそのことに気づいて、彼らをサポートする必要があるのです。

――「サンザシの家」を設立した動機は?

私は50代の前半まで保育士をしていたのですが、早くにリタイアし、その後13年間、東京・板橋区の子ども家庭支援センターに再就職しました。そこで、とりわけ、離別経験をした多くの子どもたちの状況を知り、支援の必要性を感じたのが設立の動機です。

子ども家庭支援センターは、家庭の問題について相談を受けるのですが、DV(ドメスティック・バイオレンス)や離婚でひとり親家庭になった親の多くが、離別によるつらさ、経済的な困難、将来への不安などを抱えています。その上、親は生活のために働く時間が長くなり、子どもと向き合う時間は少なくなります。すると、子どもはこの状況を、「自分がいい子でないせいだ」「自分は大事な存在ではない」と感じるようになり、親や周囲の人に反発し、自尊感情が育ちにくくなります。その結果、非行に走ることも少なくありません。こうした事情から、死別や離別を経験した子どもたちの心のサポートが必要だと強く感じていました。

転機は、死別を体験した子どもの支援に取り組む団体として1982年に設立されたアメリカ・オレゴン州の「ダギーセンター」を訪ねたことでした。2006年のことです。ここでは、死別体験を持つ子ども同士が共に時間を過ごし、遊びやグループワークを通じて自らのグリーフに気づき、向き合うことができる取り組みが行われていました。私が求めていた子どもたちの心のサポートだと感じ、大切な人との別れを経験した幼児から小学生までの子どもとその保護者を対象にした、サンザシの家を13年に開設したのです。

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