TKWO――音楽とともにある人生♪ テューバ・小倉貞行さん Vol.2
音楽以外の分野からも大きな学び
――運動もよくすると聞きました
「心身ともに健康で60歳まで演奏すること」を目標にしていたので、若い頃から健康や体力を維持するために運動を続けています。60歳を迎えた今、目標を70歳にしようかなと考えているところです(笑)。
この年になると音楽そのものから学ぶことよりはむしろ、他の分野から学ぶことが多くあります。それが楽しいですね。実は、運動における体の使い方と楽器を吹くことは、共通している部分が多々あるのです。
留学した時に感じたことでもあるのですが、西洋人と日本人とでは、体の使い方、力の入れ具合の特徴に違いがあります。狩猟民族である西洋人は、獲物を捕まえるために槍(やり)を投げるなど、体の外側に向かって力を使うことに慣れています。一方、農耕民族である日本人は、田んぼや畑にしっかりと足をつけ、下半身に力を入れてくわを振るなど、体の内側に向かって力を使うことがもともと身についているようです。
そうした民族の特徴から、楽器を吹く際も、日本人はグッと力を入れて押さえつけるような鳴らし方をする傾向にあります。しかし、西洋の楽器を響かせるには、本来、体から放すような力の使い方をして演奏しなければなりません。ちなみに、音楽に限らずどの分野でもリラックスする大切さが語られますが、これはただ体の力を抜くことではなく、西洋のことに関しては体の外側に力を解放する感覚を意味しているのではないでしょうか。
このことを、別の例で説明してみましょう。例えば私の趣味である水泳でも、クロールで「1、2、1、2」というタイミングで両手を交互に力任せに回してしまうと、泳ぎは止まってしまうんですね。しかし、「1と2と……」といったように、1と2の間に「と」を入れて、意識することで、水中で体が「スーッ」と伸び、スムーズに進むようになります。この1や2が音楽で言えば表拍(ダウンビート)、「と」の部分が裏拍(アップビート)で、この裏拍を意識して泳いだ時の「スーッ」と伸びる感じと、楽器を「ポーン」と鳴らした時に音がホールに響く感じがとてもよく似ています。
――リズム感を取るために、裏拍を感じることが大切なのですね
そうなんです。こうした体の使い方や感覚は、音楽の勉強をしているだけでは、なかなか身につきません。今、水泳の話をしましたが、球技のほとんどは西洋で生まれたスポーツなので、体の外側に向かって力を使う感覚をつかみ、アップビートを感じるにはとても有効です。テニスでは相手がサーブを打つ瞬間に、受ける側がピョンと飛ぶ姿を見たことがありませんか? このフットワーク(スプリットステップ)も実は、アップビートの動きになっていて、力を解放することにつながっています。
西洋と日本では、さらにこんな違いもあります。日本にはもともと、3拍子の曲がほとんどないんですね。これも西洋との生活習慣などの違いによるもののようです。そのためアップビートの感覚がつかみにくく、3拍子のワルツや8分の6拍子のマーチは、日本人にとって苦手といわれています。佼成ウインドの正指揮者・大井剛史さんはよく、「アップ(ビート)で音を出してください」と言うのですが、大井さんもこの感覚を求めているのだろうと感じています。