年頭法話 立正佼成会会長 庭野日鑛
家庭で人間教育、人格形成につとめ 日本の伝統を基に立派な国づくりを
さらに、今年次の方針では、昨年同様、夫婦、父母、親として、未来を担う幼少年・青年達を如何にして育て、人格の形成をはかるか、如何にして家を斉えていくか、さらに、日本の伝統を受け継いで立派な国を打ち立てていくか、創造的に真剣に務めたい、と根本(こんぽん)的な課題をお示ししました。
幼少年・青年達を育成する上で一番大事なことは、社会の最小単位である家庭の中で、ご宝前を中心にして、しっかりとした人間教育、人格の形成がなされていく「斉家(せいか)」(家庭を斉えること)を実現することです。
以前、私は、「父は子どもの尊敬の的(まと)でありたい。母は子どもの慈愛の座でありたい。なぜかなら、家庭は子どもの苗代(なわしろ)だから」との言葉を紹介しました。
子どもはおのずから、父に敬の心を抱き、母を愛の対象とするといわれます。そして親の言動を見て学び、真似(まね)をします。
ですから父親の場合は、子どもが敬するにふさわしい存在となることが最も肝心(かんじん)なことであります。仕事中心で家庭を顧みなかったり、一方的に説教をしたり、休みの日に家庭でだらしない姿を見せたりするのは、厳(げん)に慎(つつし)むようにいたしましょう。
また母親は、どんな子であろうと無条件に受け入れ、温かい愛情を注ぎます。やがてわが子が大人になり、出世をした時でさえ、「どれほど苦労するのだろう」と案じ、悲しむのが、母の愛だといわれます。
そういう父母のところに健全な子どもが育つのであります。
一方、近年は、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナ武装勢力間の衝突などが相次ぎ、多くの犠牲者が出ています。貧困、気候変動(きこうへんどう)、環境破壊、水や食料の不足、自然災害といった問題も山積(さんせき)しています。
課題は複雑で、一朝一夕(いっちょういっせき)に解決するものではありませんが、私たちは、いつも足元を見つめて、あきらめずに一歩一歩前進していきたいものです。
これまでも申し上げてきたことですが、日本は、上代(じょうだい)の頃、国名を「大和(やまと)」と定(さだ)め、「大いなる平和」「大いなる調和」の精神を終始一貫することを、国家的な理想としてきました。
聖徳太子(しょうとくたいし)は、「和(わ)を以(もっ)て貴(たっと)しと為(な)す」という言葉を十七条憲法の第一条に掲(かか)げられています。
こうした精神は、日本だけでなく、あらゆる国、地域に通用する普遍(ふへん)的な平和観であると信じます。
日本の伝統を受け継いで、日本の国をしっかりとした平和な国家にし、それを世界に及ぼしていくことが私たちの大事な歩みであります。
同時に身近には、職場や学校、地域、家庭など、いま自分のいる場所で、思いやりのある言動、菩薩行の実践を心がけたいものです。そのことを、たとえ誰に評価されなくとも地道に続けていきましょう。
「一灯照隅万灯遍照(いっとうしょうぐうまんどうへんじょう)」との言葉があります。一灯照隅とは、「一隅(いちぐう)を照らす」といわれるように、自らが灯明(とうみょう)となって、周囲を照らすことです。万灯遍照とは、その灯火(ともしび)が集まって万灯となり、世の中、世界全体を明るく照らし出すことを表しています。
そういう歩みを、まず自分から踏み出したいと思います。
人生をおくる上では、思いもよらない困難な出来事に遭(あ)うことがあります。しかし人間は、苦しみや悲しみがあるからこそ、それを乗りこえるべく菩提心(ぼだいしん)を起こさしめられるのであります。
「心を成長・進化させるチャンス」と受け取って、目の前の人、目の前の事柄に誠心誠意取り組んでいく――それが「即是道場」の精神であり、心田(しんでん)を耕(たがや)すことにほかなりません。
一人ひとりが、より高きもの、大いなるものを追い求め、自らの至らざるをバネにして、一歩一歩進歩向上していきたいと念願しています。