立正佼成会 庭野日鑛会長 8月の法話から

画・茨木 祥之

永遠の平和を目指す

昭和天皇さまの「終戦の詔勅」(玉音放送)の中で、最も大切なところとして、「萬世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス」という言葉があります。

「萬世の太平」とは、信頼できる精神と道義の確立によって達成し、維持することのできる永遠の平和という意味です。今、ロシアのウクライナ侵攻ということもあります。日本が国家として、また、日本の国民として、真剣に「萬世の太平」に取り組んでいるかどうか、戦後77年を迎えるこの終戦記念日に、私が胸に思っていることです。お互いさまに、「萬世の太平」に心血を注いでいかなければなりません。

私たちの教団は仏教教団ですから、仏さまの教えを通して「萬世の太平」――永遠の平和に真剣に取り組んでいくことが大切です。
(8月15日)

誕生偈の意味

釈尊はお生まれになった時に、四方に七歩歩んで、右手で天を、左手は地を指して、「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」と唱えられたといわれています。これは有名な誕生偈ですが、釈尊も人の子でありますから、生まれてすぐに「天上天下唯我独尊」と言われることはないわけです。われわれと同じように、「おぎゃー」と呱呱(ここ)の声を上げられたと思います。しかし、仏伝によると、釈尊は「天上天下唯我独尊」と唱えられたとあります。

「天上天下唯我独尊」とは、「広大な宇宙にあって、人間は一人ひとりが皆、尊厳なる存在である」というのが真の意味です。言い換えれば、一人の自己自身に尊厳なるものを見る者は、他の全てのものに自己と同等の尊厳を見るということです。そういう「自他不二(じたふに)」――自分も他人も、あるいは他のあらゆる人も、一人ひとりが具えている人格を「独尊」といい、そのことが「天上天下唯我独尊」と表現されているわけです。

誕生偈の言葉は、人類がこの世に現れて、初めてこのような真実を自覚した、釈尊の喜びの声でもあると言えます。今から2500年も以前になされた「人間平等尊厳の宣言」です。みんな一人ひとり、全ての人が尊いいのちを頂いているのですから、その意味合いをしっかりと踏まえて精進させて頂きたいものです。
(8月15日)

仏の智慧を具えた私たち

釈尊はお悟りを開かれた時、こういう言葉を述べられたと伝えられています。

「奇なるかな。奇なるかな。一切衆生ことごとく皆、如来の智慧(ちえ)、徳相(とくそう)を具有(ぐゆう)す。ただ妄想(もうぞう)・執着(しゅうじゃく)あるを以(もっ)ての故(ゆえ)に証得(しょうとく)せず」

これは、「不思議なことだ、不思議なことだ、生きとし生けるものすべては仏の智慧と慈悲を具えていたとは。すべては仏の心をもち、悟りを開いておったではないか。しかし、現実にはそうでないのは何故(なぜ)であるかというと、種々妄想してその妄想に執着し、迷ってしまうからである。迷いの雲に仏の心をおおってしまうからであり、それゆえに仏心というものが外に現われてこないだけなのだ」(『白隠禅師 坐禅和讃を読む』 河野太通著)という意味です。つまり、本当の自分に気づきなさいということが、ここに込められているわけです。

さらに深くこの言葉を味わいますと、釈尊が「衆生」という言葉を述べられているところは、人間だけにとどまるものではなく、全ての生物、さらに石や土という無生物をも包含するということです。万物の霊長といわれている人間だけが尊いのではなくて、あらゆるものが尊い――そういう真実に目覚めたのが釈尊であり、そういう人を「仏」といいます。

私たちも、真実に目覚められた釈尊と同じように生まれてきているのですから、そのようになれることを忘れないで精進しなさいということが込められているのです。
(8月15日)

「大和」の精神を今に

日本の国はかつて「大和(やまと)」という国名でした。人によってはいろいろな思いが湧いてくる言葉かもしれませんが、私たちは正しく理解し、受け取って、その精神を後世に伝えていかなければならない大事な国の名前です。

古代、日本の文化の偉大な功労者であった聖徳太子は十七条憲法を記され、「和を以て貴しとなす」と宣言されました。その和を用いた「大和(やまと)」「大和(だいわ)」とは英語に直すと「Great Peace(大いなる平和)」「Great Harmony(大いなる調和)」となります。その精神は歴史的に終始一貫する日本の国家的、民族的な理想であったといえます。日本の古今を通ずる本願が、「大和」(だいわ/やまと)という国名に込められていたのです。

日本の国は二千年を超える歴史があります。長い歴史の中で、和の精神を国の本願としてきました。もちろん戦争に走ったこともありましたけれども、本来的には「和」を大事にしてきた国です。そのことを正しく理解し、受け取って、後世に伝えていくことが大事だと私は思います。
(8月19日)