立正佼成会 庭野日鑛会長 9月の法話から

画・茨木 祥之

平凡な私たちに宿る非凡の力

「地涌(じゆ)の菩薩」――このことが、とても大切です。

地涌とは、大地の下から涌(わ)き出ること。大地とは、現実の娑婆(しゃば)世界のことです。この人間の現実世界を、仏さまの教えによって常寂光土とするという大きな仕事は、娑婆世界の人の当然の義務であるということが、法華経に説き示されているのです。

大地から涌き出た人たちとは、一般大衆の中にあって、人々と共に悩み、苦しみ、楽しんでいる、一見、平凡な人間なのですが、唯(ただ)一つ、「人たる者の本道を踏み外すまい」と心がけている人です。それは、妙法蓮華経に象徴される蓮華の花が、泥水に染まらず、本当にきれいに華を咲かせるように、人としての本道を踏み外すまいという心で修行している人のことです。それが「地涌の菩薩」です。

この娑婆世界、人間の現実世界の問題は、天上から地上に降り立ったような心持ち――すなわち傍観者的な態度の人々によっては解決されません。また、批評的な言葉だけでも解決されません。現実の世界で悩み、苦しんでいる無名の人々の行動によってのみ、解決されるということが、そこに示されているのです。

私たちは、「なかなか仏さまのようにはなれません」とよく言います。しかし、「ごく平凡な私たちによってこそ、この世の中の問題は解決されていくのだ。理想の世界を築くことができるのだ」ということです。

ですから、私たちは一人ひとりが、自分を卑下することなく、しっかりと仏さまの教えを信じ、理解して、慈悲の心で日々の菩薩道を実践することが大切であり、このことが、法華経の題目(主旨、主題)です。
(9月15日)