バチカンから見た世界(158) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

G7でスピーチしたイタリアの政界、宗教界の指導者(1)

イタリア南部プーリア州で6月13日から15日まで、同国を議長国とする主要7カ国(G7)首脳会議が開催された。この中で、イタリア国民から圧倒的に支持される政治、宗教の指導者がそれぞれスピーチした。セルジョ・マッタレッラ大統領と、ローマ司教であるローマ教皇フランシスコだ。両指導者とも、キリスト教の世界観をビジョンとし、欧州統一思想や、国際法の順守される世界を訴え続けている。

二人は、かつて欧州統一の父と呼ばれるアデナウアー、シューマン、デ・ガスペリらが説いた、キリスト教の統一思想を基盤とする欧州統一構想の夢を追い、第二次世界大戦の廃虚から立ち上がろうとする人類が希望を託した国際法の制定と多国間交渉による、揺るぎない世界平和の構築を呼びかけている。政治と宗教という、別分野で行動する二人の指導者は、政教分離の原則に沿い、それぞれの分野を逸脱しないよう意識しながらも、国民や人類に奉仕するという視点から、絶え間ない協調を展開している。

マッタレッラ大統領は6月14日、G7の晩餐(ばんさん)会を主催し、各国首脳を前にスピーチした。この中で、「グローバル化によって促進された相互依存のプロセスが、突如、世界レベルで分かち合われる価値観と目的に向けた動きをも含めて停止してしまった」と分析する。それとともに、「“昔からの亡霊”が再現され、国際協力、諸国民を尊重する国際共存規則の構築が、厳しい試練にさらされ、地政学的な緊張や紛争に場を譲った」と指摘した。

さらに、世界では、より顕著な役割を果たしたいという野望を持って現れた“新たな主人公”が、「G7をも含めた国際共同体の、平和と発展に向けたポジティブなプロセスを展開していくことに挑戦している」と述べた。現代史の中で台頭してきた新勢力が、第二次世界大戦後の数十年間で構築されてきた国際秩序よりも、自分にとって有益な世界構造を求めることに躍起となっているが、その必死の努力は、新帝国主義や新植民地主義への道を拓(ひら)く空間や危険性になっているのだ。人類が夢見た国際法と多国間交渉の道が、新勢力の野望によって置き換えられつつある世界が到来している、という警告だ。

その典型的な例として、マッタレッラ大統領はウクライナ侵攻を挙げ、「2022年2月24日、ロシアが欧州で戦争を勃発させる責任を負い、1975年の『ヘルシンキ宣言』(全欧安全保障協力会議)以降に、欧州大陸で実現されてきた安全保障に関するあらゆる進歩を否定し、新帝国主義という危険な報復(怨念)の道を試みた」と訴えた。1900年代に勃発した二つの世界大戦が示した歴史的教訓を無視、軽視すると、悲劇的な状況に陥ることは明らかだと話した。

従って、ウクライナの独立を擁護することは、第二次世界大戦以降の国際社会が共存の基本原則としてきた、「われわれ諸国民の自由、安全保障、繁栄を擁護していく」ことでもあるのだ。この視点から、同大統領は、G7が「法治国家、民主主義、人権の尊重、国際協力といった原則を認知している」と強調。こうした価値観や原則が「世界の多くの地域で独裁的な傾向が拡大しつつある、という憂慮すべき状況で、無視されてはならない」と戒める。独裁や強権政権は、国内では人間の権利を圧迫し、国際的には攻撃的な行動に出るからだ。ガザ侵攻にも短く言及し、戦争の解決策として「2国家原則」を主張した。