バチカンから見た世界(134) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
そして、2019年には教皇が挑戦するカトリック教会の改革路線に全く新しい側面、清風が吹き込んできた。イスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長と共に、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで「人類の友愛に関する文書」に署名したのだ。同文書の前文には、「信じる者は、被造界と全宇宙を大切に守り、一人ひとりを、とりわけ最も助けを必要としている貧しい人々を支えることを通して、この人類の兄弟愛を表すように招かれています」と記されている。
両指導者による共同署名は、2001年の米国同時多発テロ発生以来「文明の衝突」と称され対峙(たいじ)してきたキリスト教とイスラームの関係改善に大きく貢献した。さらに、宗教の名を使ったテロ攻撃を克服するだけでなく、対話を通した世界の諸宗教者による平和構築への努力を強力に推進する原動力にもなっていった。
教皇は2020年、「人類の友愛に関する文書」からインスピレーションを得て記した回勅『すべての兄弟たち』に中央イタリアの聖都アッシジで署名し、公表した。「貧者の選択」というカトリック教会の改革路線が、キリスト教の壁を超え、世界の諸宗教者たちとも分かち合われるようになったのだ。
兄弟姉妹である「ロシア人、ウクライナ人の間での紛争の調停に向けた道」を必死に模索する教皇は、バチカンメディアから選出10周年を機に「何を最も希望しますか?」と問われ、「世界に平和を!」と力強く答えた。