バチカンから見た世界(133) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

2月24日は「悲しい記念日」――教皇

ローマ教皇フランシスコは2月22日、バチカンで行われる水曜恒例の一般謁見(えっけん)の終わりに、「2月24日で、(ロシアによる)不可解で残忍なウクライナ侵攻の開始から1年が経過する。悲しい記念日だ!」と発言し、昨年2月24日以来、110回を超えるウクライナ和平のアピールを行ってきた自身の胸中の苦しみを明かした。

さらに、「死者、負傷者、難民、離散者、破壊による経済的、社会的被害といったあらゆる統計が、悲劇について物語っている」と指摘し、「これほどたくさんの犯罪や暴力を、主(神)が許してくださるだろうか」と糾弾。「主は、平和の神だ。殉ずることを余儀なくされ、苦しみ続けるウクライナ国民の近くにいよう」と呼びかけた。

また、「戦争をやめさせるために、可能な限りの努力がなされたかどうかについて、自問自答する」ことの必要性を訴えた。その上で、世界の政治指導者たちに対して、「終戦、停戦、和平交渉の開始に向けた具体的な努力」を要請し、「瓦礫(がれき)の上に構築された勝利は、本当の勝利ではない!」と述べた。

教皇のアピールに先立つ21日、ロシアのプーチン大統領は、連邦議会で内政、外交の基本方針に関する年次教書演説を行った。この中で、「欧米のエリート層は、ロシアを戦略的に打倒するという野望を隠そうとしない」と主張。ロシアが対話による解決を呼びかけたにもかかわらず、欧米諸国は「ウクライナ東部(ロシア人居住区)でのウクライナによるテロ活動を無視」し、軍事的には「北大西洋条約機構(NATO)の(東に向けた)勢力拡大」、精神的には「退廃した欧米キリスト教文明をロシア圏に強要」してきたとする、昨年2月22日から主張し続ける「説話」を繰り返した。そのため、ウクライナへの軍事介入は、欧米文明に向けて移行しようとするウクライナをも含めて、「ロシア圏を防御するための特別作戦」だというのだ。

そして、欧米諸国からの攻撃に対処するため、プーチン大統領は「新START(新戦略兵器削減条約)の履行停止」を表明した。ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長も同日、「もし、米国がロシアの敗北を望んでいるなら、ロシアは核兵器を含むあらゆる兵器で防衛する権利を有する」と発言した。

また、プーチン大統領は年次教書演説で、「欧米諸国では、数百万の人たちが霊的な災害に押しやられていることに気づいている」と指摘した。「欧米のエリート層は気が狂い、治療法さえ無いかのように見受けられる」と話し、彼らは、うそをつき、歴史的事実を歪曲(わいきょく)しながら、ロシアの文化と、ロシア正教会や他の諸宗教を攻撃していると非難。(男女で構成される伝統的な)家庭、文化、国家のアイデンティティーを破壊し、小児性愛をも含む、子供たちに対する暴力を日常的に認めているというのだ。

さらに、「神父たちに同性カップルを祝福するよう命じ、男女間の一致としての家庭という聖典の教えが疑問視されている」と批判する。こうした退廃的な欧米文明から「わが国の子供たちを守る」ためにも、ウクライナ侵攻は必要だったという論法だ。

連邦議会の最前列には、ロシア正教会最高指導者のキリル総主教が着座し、プーチン大統領のスピーチに耳を傾けていた。