バチカンから見た世界(126) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

カザフスタンの核兵器放棄は勇断――教皇

ロシアのプーチン大統領は9月21日、国営テレビに出演し、ウクライナで展開されている軍事作戦に関して部分的な動員を可能とする大統領令に署名したことを明らかにした。部分動員の対象は、軍務経験のある国民30万人とのこと。加えて、ロシアが大部分を制圧したウクライナ東部や南部の4州において、親ロシア派勢力が企画している、ロシアへの編入を問う住民投票(23~27日)に関し、「支持する」と公表した。

プーチン大統領はその理由として、「攻撃的な反ロシア政策を展開する欧米が限界を超えた」ことを挙げ、ロシア政府は「あらゆる手段を駆使して応える」と発言した。「ロシアを弱体化、分裂、崩壊させようと試みる欧米」が、核兵器による威嚇を行おうとしているが、その威嚇は逆効果となって欧米に跳ね返るとも警告した。

核兵器の使用をほのめかしながら欧米を威嚇するプーチン大統領に対し、米国のバイデン大統領は18日の段階ですでに、核兵器や化学兵器を「使わないように」、そして、使われた場合にはウクライナ戦争が「第二次世界大戦以降に全く見られなかったような局面(第三次世界大戦)へと突入していくだろう」と発言していた。日本の岸田首相も20日、国連総会の一般討論演説において「今般、ロシアが行ったような核兵器による威嚇、ましてや使用は、国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威であり、断じて受け入れることはできません」と述べている。

ローマ教皇フランシスコは21日、プーチン大統領が国営テレビで演説したのと同じ時に、バチカン広場で執り行われていた一般謁見(えっけん)において、カザフスタン訪問(13~15日)を振り返り、スピーチを行っていた。

教皇は、旧ソ連の一国であったカザフスタンが、「より成熟した民主主義の構築へ向けての歩をたどり、社会全体の要請に効果的に応えていくことができるように願った」。また、民主主義に向けた道が「困難で時を有する」としながらも、「同国が核兵器に対して“NO”と言明し、良きエネルギー、環境政策を実施するという非常にポジティブな選択をしたことは評価されなければならない」と讃(たた)えた。その上で、「この選択は勇断だった。この悲劇的な戦争(ウクライナ戦争)の時にあって、何人かの人々が核兵器について論議しているが、“狂気の沙汰”だ。カザフスタンは、それ以前に、核兵器に対して“NO”と言っていた」のだと述べた。

カザフスタンを訪問中にも、教皇は首都ヌルスルタンで開かれた「世界伝統宗教指導者会議」の開会式で、「同じ天の息子と娘である私たちは、友愛によって結び付けられている」とスピーチ。世界の諸宗教指導者たちに対して宗教(religion/結び付ける)の根本的な役割を強調し、「宗教は、私たちが被造物であり、全能ではなく、同じ天という目標に向かって歩む男女であることを教えている」と呼びかけた。

そして、「人間は、世俗の利益や経済的な関係を構築するためのみに存在しているのではなく、天に目を向けて共に歩む旅人であり」、この純粋なる宗教性を保持していくために、「あらゆる信仰を汚染し、浸食する原理主義に向かって立ち上がり、私たちの心を透かし、慈悲深くしていく時が来ている」ともアピールした。また、旧ソ連のような「無神論国家」が「宗教に対する猜疑心(さいぎしん)や軽蔑を助長」していたと言及。「宗教が問題ではなく、より調和ある共存へ向けての解決の一部である」と主張した。

「超越(この世を超える/神仏)や友愛という聖なる価値観の追求が、多くの現代制度を襲い、民主主義をも含めて諸国民間での安全保障と調和を脅かすのみならず、地政学、社会、経済、環境、そして終局的には、霊的な分野における危機に対処していく上で、なされなければならない選択に光明をもたらす」と話した教皇は、「私たちは、世界における平和と、一人ひとりの人間の心に宿る無限(超越)への渇望に応えていくために、宗教を必要としている」と強く主張した。

こうした「人間の、真に人間的で全体的発展」の根幹が、「信教の自由」にあると訴える教皇は、「信教の自由が典礼(儀式)の自由に限定されてはならない」と警告した。信教の自由が、布教や宗教の社会的役割をも認めていかなければならないからだ。同時に、改宗のみを目的とした布教や、洗脳を基盤とした信者獲得に対して警鐘を鳴らした。