バチカンから見た世界(120) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
文明の衝突をあおるロシアの政権と正教会
ウクライナの首都キーウ(キエフ)のビタリ・クリチコ市長はこのほど、「世界の霊的指導者たちが、彼らの道徳的役割を果たすための立場を明確にし、諸宗教の平和に対する責任を、誇りを持って遂行してほしい」と呼びかけた。これを受け、世界の諸宗教指導者で構成される使節団が5月23日から26日までキーウを訪問し、同国に対するロシア軍の侵攻と爆撃の早期終結と、和平を模索していくことを願い、祈りを捧げた。バチカンの公式ニュースサイト「バチカンニュース」が26日に報じた。
一方、ロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教は、ウクライナやベラルーシをも含めたロシアの至上主義を一貫して訴え、そのロシアの純粋性を、欧米諸国の退廃した文明を基盤とする北大西洋条約機構(NATO)から守るため、ロシア軍がウクライナで防戦を展開しているとの説話を唱え続けている。
プーチン大統領は、ウクライナのゼレンスキー政権を“ナチス”と呼び、同国への侵攻を“ナチス掃討作戦“と称して正当化している。キリル総主教は、同大統領の言う「ナチス」を“退廃した欧米文明”と拡大解釈しており、欧米の文明は同性愛者や同性婚を認める非道徳的なもので、ウクライナでの紛争は“形而上学(けいじじょうがく)的な戦い”だと主張する。
キリル総主教は、ナチス・ドイツとの「戦勝記念日」(5月9日)の前日、「ロシアは、誰かを傷つけ、侵略し、占領することを望んでいない」「父なる大地(ロシア)の“聖なる”国境を侵害されないため、われわれの霊的、物的な力を結集させている」と述べた。また、17日には、「ロシアとウクライナの両国にいる(正教会の)信徒たちは、神が憎しみを培う外的勢力(欧米文明)のたくらみを覆してくださるようにと、平和構築のために熱き祈りを捧げている」と伝えた。