内藤麻里子の文芸観察(32)

永井紗耶子さんの『女人入眼(にょにんじゅげん)』(中央公論新社)は、源頼朝の長女・大姫(おおひめ)の入内(じゅだい)に向け、教育係として鎌倉入りした宮中の女房・周子(ちかこ)の目を通して鎌倉幕府を描く。

木曽義仲の嫡男・義高が許婚(いいなずけ)であった大姫は、義仲追討後に義高も討たれたことで気鬱(きうつ)の病にかかっていた。そのため周子は大姫に会うこともままならない。複雑な情勢の中で、周子は大姫の真意を読み解いていく。

そこに現れるのは御台所(みだいどころ)・政子の、今で言う“毒母”ぶりだ。しかもこの母には気力、知力に権力もある。毒母は“毒妻”でもあり、ここに源頼朝とその直系が3代で断絶した理由の一端もあったことが鮮明にあぶり出される。政争の中では人は駒だが、一人ひとりには血も涙もある姿が悲しく迫る。

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