バチカンから見た世界(110) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
その上で、ローマ教皇フランシスコが昨年10月に公布した回勅『すべての兄弟たち 友愛と社会的友情に関して』に言及しながら、選手村は、「全ての人間がこの地球上で同じ尊厳性を持って生まれ、世界が全ての人のために存在するという現実を実感できる」「肌の色、宗教、能力、出生地、居住地といったことが、対立の原因や、全ての人の権利を無視して一部の人の特権を正当化する理由になってはならない」と伝えた。
また、デマルコ神父が同選手村で感じるのは、「一人ひとりが、この素晴らしき共同体(世界)の中でかけがえのない存在」であり、それぞれの国のユニフォームを着ているが、先進国、開発途上国といった違いを超えて、「各選手が勝利を夢見る権利を持ち、全ての選手が表彰台に上る可能性を有していることが確信される」ことだという。「世界の“へき地”が消え、たった一つの重心が存在する、皆が共にあるという共通の夢が実現されている」と喜びを表している。
バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は同日、国際オリンピック委員会(IOC)が教皇の回勅の精神を受け入れたと報道。オリンピックのモットーである「より速く(Citius)、より高く(Altius)、より強く(Fortius)」に、「Communiter(皆で一緒に)」を付記することに合意したと報じた。
教皇は7月25日、バチカン広場での正午の祈りの席上、「金曜日(23日)に東京で始まった第32回オリンピック」と話し始め、「このパンデミック(世界的流行)の時に、オリンピックが健全な競技精神を通して、希望と普遍的な友愛のしるしとなっていくように」と願った。さらに、「神が、(大会の)関係者、選手、そして、このスポーツの一大祭典のために貢献する全ての人を祝福してくださいますように」と祈った。