バチカンから見た世界(109) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
カトリック教会のピエールバッティスタ・ピッツァバッラ聖都大司教は、「聖地の問題を解決する方策は、押し付けであってはならない」とし、「聖都の開かれた諸宗教的、諸文化的な性質を理解しているイスラエルとパレスチナの人々の直接交渉だけが解決策になる」と主張する。
また、今回の交戦は、「ユダヤ人とアラブ系住民にこれまで蓄積されてきた憎悪を爆発させたもの」であり、その憎悪は、「長年にわたる暴力に満ちた政治の場での発言や、政治的、文化的に他者を分断し、軽蔑させる政策によってもたらされた」と分析する。
さらに、国際世論には注目されていないものの、憂慮すべき事態が起きているとして、イスラエル国内のユダヤ人とアラブ系イスラエル人が共存してきた地域で発生した「相互に対する暴力行為」を挙げ、「両者による暴力、自衛団の組織、襲撃を目にしてきた」と述べた。この2年間で総選挙が4回行われ、いまだに組閣できないという同国の不安定な政情も相まって、互いの人々、とりわけ双方の若者たちに相手への怨念を生じさせ、日々悲痛な状況を見せつけられているという。
今年2月にフォコラーレ運動(カトリック在家運動体、本部・ローマ)の会長に就任したマーガレット・カラム師は、イスラエル・ハイファ出身のアラブ系イスラエル人だ。同運動に入ってから、イスラエルで「出会いの体験」を基盤とする諸宗教対話に取り組み、アラブ人とユダヤ人の間に橋を懸け、正義を通した希望の構築に尽くしてきた。
今回の軍事衝突を「深い苦痛を伴いながら、状況を見つめていた」と語るカラム師。アラブ人、ユダヤ人それぞれに対して、「憎しみ合わない勇気」の大切さを訴える。両者の関係が日を追うごとに悪化している状況の中、その代償を払わされるのは、いつも「無辜(むこ)の人や子供たち」であるからだ。「インティファーダ」(イスラエル軍の占領に抗議するパレスチナ人の蜂起)を目にしてきた彼女は、これまでの体験から、敵対関係が「停戦によって終わることはない」と言う。互いの痛みを知る「出会い」(対話)と「憎しみ合わない勇気」を持つことが何よりも必要なのだ。