バチカンから見た世界(109) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

憎しみ合わない勇気を――イスラエル・パレスチナ問題

ユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖地であるエルサレムの帰属をめぐる問題は、イスラエル・パレスチナの対立、さらには、中東和平全体に関わる最大の難関といわれる。

イスラエルは1967年の第三次中東戦争によって東エルサレムを占領し、エルサレム全体を国の首都と宣言したが、国際社会は認めてこなかった。一方、米国のトランプ前大統領は2017年にイスラエルの主張を認め、米国大使館をエルサレムに移転させると発表し、翌年に実行した。トランプ大統領の発表に対し、国連総会は17年12月に、米国に方針の撤回を求める決議案を128カ国の賛成によって採択した。

米国のトランプ前大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の両政権は共に国内の極右宗教勢力から支持を受けており、パレスチナ人やイスラエル国籍を有するアラブ系住民の思いだけでなく、イスラエル・パレスチナ問題を解決するために国際社会が共有していた「2国家共存(2民族2国家)」の理念も、ユダヤ人とアラブ人による直接対話の努力も怠り、イスラエルの利益を優先させる政策を進めてきた。その中で、特にイスラエル政府が東エルサレムにユダヤ人入植地を広げて住宅建設計画を推進し、アラブ系住民に立ち退きを命じたことにより、アラブ系住民は大きな不満と反発を募らせた。

そうしたアラブ人たちの感情をくみ取り、パレスチナ領ガザ地区を実効支配するイスラーム過激派組織ハマスは5月11日、「聖都エルサレムの(ユダヤ人による攻撃からの)防御」を標榜(ひょうぼう)し、イスラエル南部に向けてロケット弾を発射した。その報復として、イスラエル軍も11日間にわたりガザ地区を攻撃。イスラエル側の死者は2人の子供を含む12人で、パレスチナでは66人の子供を含めた243人が亡くなった。

21日、エジプトと国連の調停によりイスラエルとハマスが停戦に合意し、双方の指導者が「勝利」を宣言した。同日(金曜日)、東エルサレムのアルアクサ・モスク(イスラームの聖地)前広場では、イスラエルとハマスの交戦以前から続いていたムスリム(イスラーム教徒)とイスラエルの治安部隊との衝突が金曜日の礼拝後に再び発生し、こうした状況を背景にハマスは、「聖都をユダヤ人から守るグループ」というイメージをパレスチナ人やアラブ系イスラエル人に対して強く印象付けることに成功した。聖都エルサレム問題の解決への道は、再び振り出しに戻ったのだ。