バチカンから見た世界(108) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アラブ系住民には、パレスチナ人のみならず、イスラエル国籍を持つ人々(パレスチナ系の「アラブ・イスラエル人」)もいる。一方、イスラエルでは、東エルサレムのユダヤ化政策の一環として、ユダヤ人だけに、1948年(イスラエル建国の年)以前の財産を(アラブ系住民から)取り戻す権利を認める法律が施行されている。昨年10月20日、イスラエルの裁判所は、24人のパレスチナ住民のうち12人に、退去とユダヤ人入植者への不動産の譲渡を命じた。また、11月26日、東エルサレムに居住する87人のパレスチナ人に対し、退去と不動産の譲渡を命じている。2021年1月現在、391人の子供を含む877人のパレスチナ人が、同じ処置を受ける危険にさらされていると伝えられるが、アラブ系住民には不動産を購入する権利が認められていないのだ。

イスラエルは67年以降、国際法を無視して東エルサレムを占領し、パレスチナ人居住区も治安部隊や軍隊の厳しい管理下に置くことを試みている。イスラエル警察や軍の実行する検問や行動規制、特にイスラームの聖地への入場制限に対してアラブ系住民の不満と鬱憤(うっぷん)が募っているのだ。

こうした状況の中で4月13日、東エルサレムでもイスラームの断食月(ラマダン)が始まった。イスラーム教徒たちは、その日の断食が終わる日没後に、彼らの聖地であるアルアクサ・モスク(イスラームの礼拝所)付近に集まり、親交を深めることを習慣としていた。しかし、イスラエル治安当局は、新型コロナウイルスの感染予防対策を理由にアルアクサ・モスクへの入場を規制しようとし、それに抗議するイスラーム教徒たちとの衝突が激しくなっていった。ラマダン最後の金曜日である5月7日、約7万人のイスラーム教徒がアルアクサ・モスクを訪れたが、一部の参加者たちがイスラエル警官に投石するなどして、緊張が一気に高まり、少なくとも205人のイスラーム教徒が負傷した。同モスク付近では10日にも大規模な衝突が起こり、300人以上が負傷した。

こうした東エルサレムにおける二つの事象を通し、ユダヤ人に比して下級市民として扱われていることに抗議するアラブ系住民の怒りをさらに扇動するかのように、パレスチナ領ガザ地区を実効支配する過激派ハマスが、イスラエル南部に向けてロケット弾を発射するという行為に出たのだった。「イスラエルによる聖地エルサレムに対する攻撃への報復」が、ハマスの掲げた理由だ。5月18日現在、ガザ地区からイスラエルに向けて3440発のロケット弾が発射され、子供2人を含む10人のイスラエル人が死亡した。イスラエル軍による報復としてのガザ地区に対する空爆や砲撃により、61人の子供を含む212人のパレスチナ人が亡くなった。