バチカンから見た世界(105) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

「イラク諸宗教者の集い」に参加する教皇(バチカンメディア提供)

人類救済の歴史の出発点である古代都市ウルから友愛を説く教皇

ローマ教皇フランシスコは3月5日から8日まで、イラクを訪問した。5日午前にはバグダッドにある大統領官邸にバルハム・サリフ大統領を表敬訪問し、その後、会見に臨み、大統領、政府関係者、諸宗教指導者、市民の代表、各国の駐イラク大使を前にスピーチした。

この中で教皇は、同国は「(ユダヤ教、キリスト教、イスラームに共通する)祖師アブラハムや多くの預言者たちを通した(人類の)救済の歴史と、ユダヤ教、キリスト教、イスラームが密接に結び付いた文明の地である」とし、訪問できたことに謝意を表した。

一方、教皇は、戦争による惨事、テロ、排他独善的な考えに基づく暴力が起きている近年の状況に言及。その犠牲の一例として、ヤジディ教徒の苦境を例に挙げ、「ヤジディ教徒は何の罪もないにもかかわらず、信じる宗教を攻撃の理由にされ、残忍で非人間的な迫害を受けて虐殺され、アイデンティティーと存在そのものの危機にさらされている」と述べた。その上で、「イラクは、全世界、特に中東に対し、さまざまな相違が紛争の原因となるのではなく、人々の調和や協力を生み出す原動力となることを示さなければならない」と強調し、この文明発祥の地(イラク)をはじめ全世界で、「武器の轟音(ごうおん)がやむように」と願った。また、この地に暮らす人々の状況に関心を持つことなく、自分の利益のみを追求する外部勢力の介入を非難。「宗教は本来、平和と友愛に奉仕するもの」と示し、「殺人や迫害、テロ、抑圧のために神の名を使ってはならない」と訴えた。

教皇は同日午後、バグダッドにあるシリア・カトリック教会の大司教座聖堂「救済の聖母教会」で、司教、神父、修道者、信徒らと面会した。この中で、アブラハムの生誕地とされる南部の古代都市ウルで翌6日に予定されている「イラク諸宗教者の集い」に言及。「宗教は、平和と、神の子の間にある一致に奉仕するものでなければならないという確信を、もう一度、宣言する」と伝えた。