バチカンから見た世界(95) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アヤソフィアのモスクへの変更に対し、カタール、リビア、イラン政府はエルドアン大統領の姿勢を「勇断」として評価したが、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、サウジアラビア政府は、国民の支持を得るためのイスラームの政治利用として批判している。

オスマン帝国の「復活」「再生」を郷愁として呼び覚まそうとするエルドアン政権の施策に対し、世界各地の正教会(キリスト教)がこぞって反対の声を上げた。コンスタンティノープル総主教のバルトロメオ一世は6月30日、ハギアソフィア(正教ではアヤソフィアをギリシャ語名で使用)をモスクに変更することで「世界の数百万のキリスト教徒を反イスラームに走らせる」と警告を発していた。この歴史的建造物は異なる文明の共存の象徴であり、「東西(文明)を抱擁し合う」ハギアソフィアがモスクに変更されれば、二つの世界が分断され、「対立と衝突へ向けた新たな端緒になる」との危惧からだ。

同総主教は「ハギアソフィアは、現在の所有者のみに属するものではなく、全人類の遺産である」と主張し、「トルコ国民には、この素晴らしき、普遍的なモニュメントを光り輝かせていく大きな責任と栄誉が委ねられている」と強調する。「博物館としてのハギアソフィアが、出会い、対話、連帯、キリスト教とイスラームとの間における相互理解を象徴する場」であり、その役割を果たすからだ。

トルコで最大のキリスト教会であるアルメニア正教のサハク・マシャリャン師(コンスタンティノープル大主教)は、ハギアソフィアがキリスト教徒とイスラーム教徒の両方に開放されるようにと願っている。「私たちは、同じ天のキューポラの下で祈っていませんか」と問い掛け、そうであるならば、「私たちは、ハギアソフィアのキューポラをも分かち合うことができる」と主張する。「1000年間にわたりキリスト教の祈り、500年間にわたってイスラームの祈りを吸収してきたハギアソフィアは、その秘訣(ひけつ)を内に収めており、(両宗教が内部で祈ったからといって)何も言うことはないだろう」とも指摘している。それよりも重要なのは、「“聖ソフィア(神の叡智=えいち)”という名が示しているように、人類史においては平和以上に高貴なものはないという叡智である」。