バチカンから見た世界(92) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

また、教皇によって任命されたワシントン大司教区のウィルトン・グレゴリー大司教(アフリカ系米国人)は、同大統領夫妻による教皇ヨハネ・パウロ二世の巡礼地訪問を「宗教的な場とシンボルの政治利用」と非難。2日付の「バチカンニュース」は、「教皇ヨハネ・パウロ二世も、祈りと平和の場で写真を撮るために、催涙ガスやその他の方法を用いてデモを制圧するような行為を容認しない」という同大司教の言葉を伝えた。

11月の大統領選挙に向けて支持者への政治的パフォーマンスに終始していると、宗教界やマスメディアで指摘されているトランプ大統領。白人至上主義や排他的な原理主義に近いキリスト教右派勢力など自身の選挙基盤に対するアピールを優先させ、新型コロナウイルスの感染拡大で浮き彫りになった人種差別や格差拡大といった早急に取り組むべき問題をなおざりにしている現状への不満や失望が高まっていると、多くのメディアが報じている。

米国カトリック司教会議の「反人種差別委員会」で委員長を務めるシェルトン・ファーブレ司教は、「構造的な人種差別によって、アフリカ系米国人の間で新型コロナウイルスの感染が広がり、甚大な被害が出ている」と訴える。彼らの多くは医療保険に加入しておらず、勤めを休むこともできない環境に置かれている上、「貧困のため数世代が同じ家に暮らすため、感染しやすい状況にある」と話した。

「47NEWS」の共同通信の記事(6日付)によると、トランプ大統領は5日、雇用統計で米国内の失業者数が3カ月ぶりに減少したことを受け、亡くなったジョージ・フロイド氏に言及しながら、「ジョージが(天国から)下を見て『この国にとって素晴らしいことだ』と言っていると良い」と語った。同大統領にとっては、人種差別よりも経済活動の方が優先課題なのだ。

米国で人種差別解消を訴える抗議デモが収まる気配はない。