バチカンから見た世界(92) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

バチカンメディア提供

人種差別問題に揺れる米国 トランプ大統領の宗教の政治利用に非難の声

米国中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で5月25日、アフリカ系米国人のジョージ・フロイド氏が死亡する事件が起きた。

同氏は偽ドル紙幣の使用容疑を問われ、駆け付けた白人警官によって手錠をかけられた後も、頸部(けいぶ)を警官の膝で8分以上も押さえられ、死去したのだ。「呼吸できない、助けてくれ」と叫んでも、警官が強行し続けた映像がインターネットで拡散されると、この事件は「人種差別問題」として解釈され、全米各地で大規模な抗議デモが起きた。その一部が暴徒化する事態にまで発展している。

この問題を憂慮するローマ教皇フランシスコは6月3日、バチカン宮殿から世界に中継された一般謁見(えっけん)の席上、「私たちは、いかなる形であっても、人種差別や排除を容認したり、黙認したりしてはならない。あらゆる人間生命の聖なる性格を守護していかなければならない」と訴えた。

さらに、抗議デモの一部で起きている暴徒化は自らを破壊し、自らをおとしめる行為であり、「暴力によっては何も得られず、多くを失う」と指摘。「ジョージ・フロイド氏をはじめ人種差別という“罪”によって他界した人々の霊が安らかに眠るよう祈る」と述べ、平和的な解決を呼び掛けた。

また、同4日付の「バチカンニュース」によると、教皇が4日に、米国カトリック司教会議の議長を務めるホセ・オラシオ・ゴメス大司教(ロサンゼルス大司教区)に電話をかけ、同国の司教たちが司牧(信徒の指導)的な観点から声明文を発表したことなどに、謝意を表明したという。

一方、トランプ米大統領は、自らを「法と秩序の大統領」と呼び、国内の治安維持を目的に、デモ鎮圧のためには米軍の投入も辞さないと強硬姿勢を示した。6月1日に同大統領はホワイトハウスで演説したが、2日付の「朝日新聞」電子版が、「演説のころには警官隊が催涙弾などを撃ち込み、デモの参加者を退散させた。その後、トランプ氏は側近を伴って近くの教会(注釈=米国聖公会の聖ヨハネ教会)の前まで歩き、聖書を片手に写真に納まるというパフォーマンスを行った」と報じたように、大統領の姿勢は問題の根本的な解決には向いていないというのが大方の見方だ。

同大統領は翌2日、首都ワシントンにある教皇ヨハネ・パウロ二世に捧げられた巡礼地をメラニア夫人と訪問し、写真撮影を行った。これも政治的パフォーマンスと受け取られており、米国聖公会のマリアン・エドガー・バッド主教(ワシントン教区)は、同大統領の言動を「平和的なデモに対する暴力行為」と非難し、「憤り」をあらわにした。