バチカンから見た世界(91) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

4月10日、バチカン広場で執り行われた「十字架の道行」(バチカンメディア提供)

信徒がいないミサでメッセージを発し続けたローマ教皇

5月18日、バチカンのサンピエトロ大聖堂でローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の生誕100年を記念するミサが開催され、世界に中継された。この後、新型コロナウイルスの感染予防対策として閉鎖されていた大聖堂の扉が開かれ、一般信徒に開放された。

これは、バチカンとイタリアでは一般信徒が参加するミサが3月10日から中止されてきたが、イタリア政府とカトリック教会との協議により、この状況が18日に解除されたことによるものだ。教皇はこれまでミサに参加できない信徒のためにミサの映像配信を行ってきたが、これもこの日が最後となった。

一般信徒が参加できるミサの再開に際し、現段階では教会入り口で参加者の検温を実施し、37.5度以上の体温がある人、同ウイルス感染症の兆候がある人の入場を禁止するといった制限が設けられている。この日もサンピエトロ大聖堂の入り口では訪問者の体温測定が実施された。一般信徒の参加する宗教儀式の解禁は、同日から国内の他の宗教にも適用されている。

ミサを司式した教皇フランシスコは説教の中で、「祈り」「人々への寄り添い」「正義への愛」がヨハネ・パウロ二世の「業績」を形作るものであったと述懐。「主(キリスト)は、彼の民(教会)を訪問された。同じように100年前、一人の男(後のヨハネ・パウロ二世)を司教として養成し、カトリック教会を導くように命じ、私たちの元へ訪問された」と述べ、神の啓示をたたえた。

1978年、ポーランド出身のヨハネ・パウロ二世は教皇に選出された直後、サンピエトロ大聖堂の中央バルコニーから広場に参集した大勢の信徒に向かい、「恐れないでください! カトリック教会の門戸を(世界に向けて)開放してください!」と語り掛けた。「赤い国(共産圏)から来た教皇」「世界を駆け巡った教皇」と呼ばれた教皇は86年に世界の諸宗教者に呼び掛け、それにより、イタリア中部の聖都アッシジで「世界平和祈願の日」が行われた。そして、89年に東西冷戦が終結するが、その立役者として知られる。

キリストの筆頭弟子である初代教皇の聖ペトロ、また現代では、第二バチカン公会議(1962~65年)を招集したヨハネ二十三世、同会議を引き継ぎ、閉会に導いて教会の改革に取り組んだパウロ六世、そしてヨハネ・パウロ二世といった歴代の教皇が眠るサンピエトロ大聖堂は、約2000年にわたるカトリック信仰のシンボルだ。その場所が、新型コロナウイルスによって封鎖された。

4月12日はカトリック教会の福音(聖書)信仰の原点とされるキリストの復活祭にあたり、例年はサンピエトロ広場に数十万人の信徒が参集してミサが執り行われるが、封鎖中の今年は人影がなかった。現教皇フランシスコは大聖堂内で信徒のいないミサを司式し、メッセージが世界に中継されただけだった。

ヨハネ・パウロ二世の生誕100年のミサで、メッセージを伝えるローマ教皇フランシスコ(バチカンメディア提供)