バチカンから見た世界(83) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

9月11日にバチカンで行われた「人類の友愛高等委員会」の第1回会合(写真提供=バチカン記者室)

バチカンのマテオ・ブルーニ広報局長は8月26日、高等委員会設置の取り組みに対する教皇フランシスコの喜びを伝え、「高等委員会の活動を奨励するとともに、UAE政府の具体的な努力に感謝する」との声明文を公表した。この声明文には、「悪、憎悪、対立が頻繁に報道されるという状況下にあっても、対話、相互理解、そして諸宗教の信徒や全ての善意ある男女たちが共に構築する友愛と平和な世界に向け、その可能性という善の海が広まり、われわれに希望を与えてくれる」との教皇の発言も紹介されている。

バチカン記者室ではこの日、「『人類の友愛に関する文書』が最初の実を結んだ」「諸宗教対話が過激な原理主義という悪に対する唯一の解毒剤」との確信をアユソ司教が表明し、それを報じたバチカン諸メディアのインタビュー記事も配布した。

一方、「首長国連邦ニュース通信社」(ENA)は8月22日、ムスリム長老評議会議長を務めるタイエブ総長の発言を報道。この中で同総長は、「高等委員会の設置が(歴史的に)重要な時に成され、全ての平和を愛する人々が共に一致して、(「人類の友愛に関する文書」にある)共存、兄弟愛、寛容の精神を広めていくことを呼び掛けている」とし、『人類の友愛に関する文書』にある精神を広く伝え、その精神が人々の日常生活に生かされていくことは、「世界の安全保障と安定のために貢献するもの」と語っている。

9月11日午前にバチカンで行われた第1回の高等委員会について、バチカン記者室が公表したコミュニケによれば、9月11日に行うことにした理由は、「死と破壊がもたらされた所に、生命と友愛を構築していく意志を表明するためだった」とある。「人類の友愛の文書」は、2001年9月11日の米国同時多発テロや、その後にイスラームとキリスト教間の「文明の衝突」論によって人々をあおって台頭した、「イスラーム」の名を借りた過激派組織による殺りくと破壊行為に対抗する精神や原則であるとの意志の表れだ。友愛を基盤とした共存と平和の原則を広めて対抗していくとの表明である。