バチカンから見た世界(2) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

中東の和平構築に向けて――ローマ教皇とアッバス議長が会談

イスラエル政府によるヨルダン川西岸と東エルサレム(アラブ人居住区)へのユダヤ人の入植政策や分離壁の建設などにより、イスラエルとパレスチナ自治政府の和平交渉は停滞したままだ。交渉の再開を求めるパレスチナ自治政府のアッバス議長は1月14日、バチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコと会談した。

会談後に発表されたバチカンの声明文によると、両指導者は「中東和平プロセスに関し、苦しみを生み出す暴力に終止符を打ち、正義に適(かな)った永続的な解決を図るため、イスラエルとパレスチナ自治政府による直接交渉の再開を望む」ことで一致。そのためには、国際社会の支援が必要で、相互の信頼醸成と平和に向け、そうした環境を整える必要性が確認された。また、聖地エルサレムの帰属問題については、「アブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)の信徒たちにとって、共通の聖地であることを今後も守っていく重要性」を強調した。

2014年、教皇はイスラエルを訪れた際、「イスラエルは、国際社会で認められた国境内に存在し、平和と安全を享受する権利を有する。パレスチナ国民は、尊厳を持って生活し、移動の自由を保障する独立国家を持つ権利を有する」とスピーチ。この「2民族2国家」の原則が、バチカンの基本姿勢だ。翌15年、バチカンは、公式文書でパレスチナを正式に「国家」として承認した。

エルサレムは、1947年の国連決議に基づき、「国際管理下に置く」ことになっている。しかし、イスラエルは「永遠に分割できないイスラエルの首都」と主張。これに対し、バチカンは国際社会の認識と同じく、イスラエルの首都とは認めず、「3宗教共通の聖地として、国際法の統治下に置く」との立場を表明している。一方、パレスチナも、エルサレムを首都と主張する可能性があり、エルサレムの帰属は、中東和平プロセスで最も解決の難しい問題だ。

国際社会では、大使館はその国の首都に置くことになっており、イスラエルの主張後も、各国は大使館をテルアビブに置いてきた。しかし、こうした状況の中、米大統領に就いたトランプ氏は、就任前に「米国の駐イスラエル大使館をエルサレムに移転する」と発言。国際社会のこれまでの取り組みを無視し、イスラエルの方針を認めることに前向きだとしてトランプ大統領の動向が懸念されている。

バチカン訪問前、アッバス議長は教皇に、トランプ氏に対する強い反対メッセージを発信するように願うのではないかとの報道がいくつもなされた。しかし、バチカンの声明文では、その件に何も触れていない。

1月16日付のバチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は、『ニつの当事国による解決策を再活性化させるために』と題する記事を掲載し、パリでフランス政府が主催したパレスチナ和平問題に関する国際会議の模様を紹介した。この会議には70を超える国から政府関係者が出席したが、イスラエルは参加せず、パリ滞在中のアッバス議長もイスラエルの反応に注意し、出席しなかった。これを受けて、同紙は、2国家による解決が少しでも進むのではないかと期待されたが、実際には「当事国の不在」と「トランプ氏の発言」を巡って会議が紛糾したことを報道。国際社会が表明してきた従来の見解を確認するにとどまった最終声明文の内容を示し、期待ほどの進展が認められなかったことを伝えている。