バチカンから見た世界(74) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

各国元首の年末年始の言動に見る2019年

カトリック教会は毎年の元日、「世界平和祈願日」を執り行う。ローマ教皇パウロ六世によって定められた同祈願日は、今年で52回目を迎えた。

バチカン市国の元首である現在の教皇フランシスコは、祈願日のテーマとして『よい政治は平和に寄与する』を選んだ。今年の世界平和祈願日に宛てたメッセージの中で教皇は、「万難を排して権力を追求することは、乱用と不正義をもたらす。政治は、市民生活と人間の業を構築する基本的手段である。だが、権力を行使する者たちが、人間全体に対する奉仕として実行しない時、抑圧、排除、さらには、破壊の道具となり得る」と警告している。

さらに教皇は、「公共善の不法着服」という形で実行される政治家の「悪癖」を指摘。「腐敗、人の道具化、人権の否定、共同体規範の軽視、不法な富の蓄積、国力や“国益”という理由による権力の正当化、権力保持を求める傾向、外国人嫌悪、人種差別、地球環境保全の拒否、目先の利益を目的とする際限のない資源の浪費、離散せざるを得なくなった人々への蔑視」といった問題点を挙げた。こうした悪癖が、「純粋な民主主義の理想を弱め、公共生活の恥辱となり、社会平和を危険に陥れる」と訴える。また、人々も、他者や外国人への恐怖や自尊心を失う不安に襲われており、それが不幸にも政治レベルにも影響を及ぼして国境の閉鎖や自国至上主義を招き、世界が必要としている友愛の精神を疑問視する事態になっているという。民衆の不安をあおり、自国至上主義と国境の閉鎖を訴えて世界各地で台頭するポピュリズム政権に対する教皇からの非難である。

1月1日、バチカン広場での正午の祈りでスピーチに立った教皇は、「政治を、政権担当者たちだけのものとして考えてはならない。私たち全員が、市民社会の生活、共通善についての責任を負っており、それぞれが平和に向けて奉仕することによって、よい政治が実現できる」と語り掛けた。

一方、ドイツのメルケル首相は1日、国民に向けた年頭スピーチで、「世界に広がる『自国第一主義』を牽制(けんせい)」しながら、「気候変動や移民問題、対国際テロを挙げ、『他者の利益も考慮に入れるならば、自分たちの利益が最大限になるように解決できる』と語った」(1日付の「朝日新聞」電子版)。ロシアの大統領府は昨年12月30日、プーチン大統領がクリスマスと新年に合わせ、教皇フランシスコに対し、「ロシアとバチカンの関係を強化し、普遍的価値観の擁護、地球上での正義と平和という理想の支持、諸宗教間対話の促進」を呼び掛けたことを明かした。